Sunday, July 11, 2010

五木寛之

どんな人でも、自分の母国を愛し、故郷を懐かしむ気持ちはあるものだ。しかし、国を愛するということと、国家を信用するということとは別である。
私はこの日本という国と、民族と、その文化を愛している。しかし、国が国民のために存在しているとは思わない。国が私たちを最後まで守ってくれるとも思わない。
国家は国民のために存在してほしい。だが、国家は国家のために存在しているのである。
私の覚悟したいことの一つはそういうことだ。
国を愛し、国に保護されているが、最後まで国が国民を守ってくれる、などと思ってはいけない。国に頼らない、という覚悟をきめる必要があるのである。
国民としての義務をはたしつつ、国によりかからない覚悟。最後のところでは国は私たちを守ってはくれない、と「あきらめる」ことこそ、私たちがいま覚悟しなければならないことの一つだと思うのだ。

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