世界的規模で活動する犯罪組織は、世界各地にネットワークやインフラを構築する過程で新たな犯行手口を取り込んでいる。こうした犯罪組織の我が国への浸透は、国内の伝統的な犯罪集団に対して、これらのネットワークやインフラを提供し、新たな犯行手口を知らしめることとなり、「犯罪ビジネスモデル」を再構築させ、新手の犯罪を敢行させかねない。このように、国際犯罪組織の我が国への浸透にとどまらず、国内の犯罪組織の変質をももたらす犯罪のグローバル化は、国内治安の「正面の脅威」となる危険性がある。したがって、この新たな脅威である犯罪のグローバル化に対して、今後、組織の総力を挙げて、的確に取り組んでいくことが求められる。
平成22年警察白書
ReplyDelete特集:犯罪のグローバル化と警察の取組み
今日の我が国における来日外国人犯罪を取り巻く状況についてみると、来日外国人犯罪の検挙件数、検挙人員等の統計上の数字だけでは把握できない「犯罪のグローバル化」というべき状況がみられ、治安に対する重大な脅威となっている。
ReplyDelete過去の来日外国人犯罪においても、短期滞在の在留資格等により来日し、犯行後は本国に逃げ帰るいわゆるヒット・アンド・アウェイ型の犯罪や、地縁や血縁を中核として結合した来日外国人の犯罪等、治安を脅かす事案はみられた。しかし、最近の来日外国人犯罪は、単発的な犯罪が目立った平成の初期の状況とは全く異質のものであり、次の(1)から(3)のように、世界的規模で活動する犯罪組織の我が国への浸透、犯罪組織の構成員の多国籍化、犯罪行為の世界的展開といった特徴を持ち、より深刻度を増している。
(1) 世界的規模で活動する犯罪組織の我が国への浸透
外国に本拠を置く犯罪組織が我が国に忍び寄っている状況は、以前からもみられたが、最近では、世界的規模で活動する犯罪組織が、我が国を新たな標的にするとともに、我が国の犯罪組織等と相互に連携・補完を図りつつ、より大規模かつ効率的に犯罪を敢行している。
(2)構成員の多国籍化
来日外国人で構成される犯罪組織についてみると、従前は、地縁や血縁を中核にして結び付いていたものが主であった。最近では、より巧妙かつ効率的に犯罪を敢行するため、様々な国籍の構成員が、それぞれの特性を生かして、役割を分担するなど、国籍等にかかわらず結び付いており、犯罪組織の構成員が多国籍化している。
(3)犯罪行為の世界的展開
犯罪行為の発生場所が日本国外に及ぶ事案は過去にもみられたものの、その地域は被疑者や被害者の出身地等であることが多かった。しかし、最近では、犯行関連場所が、日本国内にとどまらず2、3か国に及んだり、被疑者や被害者との関係を有しない地域であったりするなど、犯罪行為が世界的に展開されている。
外国人犯罪を助長する犯罪インフラの実態
外国人犯罪を助長する犯罪インフラとは、不法入国・不法滞在を助長し、又は来日外国人が犯罪を繰り返し行うことを容易にする基盤のことをいう。また、こうした犯罪インフラの構築に資する犯罪を犯罪インフラ事犯といい、地下銀行による不正な送金、偽装結婚、偽装認知、旅券・外国人登録証明書等偽造、不法就労助長等がある。
犯罪のグローバル化が進む背景には、国際犯罪組織が、こうした犯罪インフラを利用して、各種犯罪を効率的に敢行している状況がある。
地下銀行
地下銀行とは、銀行業を営む資格のない者が、報酬を得て国外送金を代行することなどをいい、その行為は、銀行法等に抵触する。地下銀行は、不法滞在者等が不法就労等で得た収益を海外の家族等に送金したり、国際犯罪組織が国内で得た犯罪収益等を海外に送金したりするのに利用されている。
各種犯罪のグローバル化
(1)薬物銃器犯罪のグローバル化
(2)サイバー犯罪のグローバル化
インターネットは、日本国内のみにとどまるものではなく、海外にも広がっていることから、海外からの不正アクセス行為等の国境を越えたサイバー犯罪が発生している。平成21年中の海外からの不正アクセス行為の認知件数は40 件であり、主な不正アクセス元は、中国、韓国であった。
また、インターネット上には児童ポルノ画像等の違法情報を掲載するウェブサイトや電子掲示板が多数存在し、これらの中には、海外のウェブサーバに蔵置されているものもある。21年中にインターネット・ホットラインセンター(34、76頁参照)が違法情報と分析した件数のうち、5,419 件が海外のウェブサーバに蔵置されていた。
(3)知的財産権侵害事犯のグローバル化
平成21年中の知的財産権侵害事犯の検挙事件数(注)は364 事件、検挙人員は620人と、依然として高水準で推移している。
偽ブランド事犯(商標法違反)では、押収した偽ブランド品の大半が中国及び韓国を中心とするアジア諸国から国際郵便等を利用して密輸入され、主としてインターネットを利用して販売されている。
海賊版事犯(著作権法違反)では、パソコン等を使用した国内での複製が大半を占めているが、中国等のアジア諸国からも密輸入されており、主としてインターネットを利用して販売されている。また、ファイル共有ソフトを利用した公衆送信権侵害事犯(著作権法違反)も増加傾向にある。
また、経済のグローバル化やインターネットの普及に伴い、偽ブランド品が中国等で製造され、第三国を経由し、日本に流入する事犯が発生するなど、知的財産権侵害事犯のグローバル化が進んでいる状況がみられる。
(4)マネー・ローンダリング事犯のグローバル化
マネー・ローンダリング(資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見・犯罪の検挙を逃れようとする行為であり、経済・金融サービスのグローバル化により、日本人が国境を越えて犯罪収益を移転させるマネー・ローンダリングのほか、来日外国人によるマネー・ローンダリングも敢行されている。
警察では、犯罪による収益の移転防止に関する法律に定める疑わしい取引の届出制度(注)を活用するなどして、マネー・ローンダリング事犯の取締りを推進している。
平成21年中に検挙したマネー・ローンダリング事犯のうち、来日外国人によるものは13 件と、前年より5件(62.5%)増加し、全体の5.5%を占めている。