Tuesday, November 9, 2010

熊谷守一

私は人を押しのけて前に出るのが大嫌いでした。偉くなれ、偉くなれと言っても、みんなが偉くなってしまったらどうするんだ、と子供心に思ったものです。
絵なんてものは、やっているときは結構難しいが、出来上がったものは大概アホらしい。どんな価値があるのかと思います。しかし人は、その価値を信じようとする。あんなものを信じなければならぬとは、人間はかわいそうなものです。
紙でもキャンバスでも何も描かない白いままが一番美しい。日本画でも墨だけで描いたものの方が私はいいと思います。
私は名誉や金はおろか、「ぜひすばらしい芸術を描こう」などという気持ちもないのだから、本当に不心得なのです。
私はほんとうに不心得者です。気に入らぬことがいっぱいあっても、それにさからったり戦ったりはせずに、退き退きして生.きてきたのです。
おおまかにいって、西洋の花はいつまでも咲いていて気の長いものです。しまいにはあきがきてしまう。そこにいくと、日本の花は気短です。まだ、じゅうぶんにきれいなのに惜しげもなく花を散らしています。

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