建築家の自邸を訪ねて敷地18坪に建てたコンクリート打放し住宅 鹿嶌信哉+佐藤文 邸家の時間http://www.ienojikan.com/toptopics/architect/20090128.html
東急田園都市線の用賀駅から徒歩5分という便利な場所に、鹿嶌さんと佐藤さん夫妻は運よく土地を見つけることができた。 ただし広さは約18坪。前面道路のある北西側以外は隣家に囲まれている、いわゆる都市の狭小敷地だ。加えて、建物の高さ制限などを定めた法規制である「用途地域」が、敷地の途中から分かれてしまっている。前面道路側が第2種低層住居専用地域で、奥側は第1種住居地域なのだ。「最初に土地を見に来た時、地面に全然光が当たっていなかったから、どうやって光を一日中入れるかを、模型をつくって考えました」(鹿嶌さん)。 困難な条件ほど設計魂を掻き立てられるのが、建築家という人たち。もちろん鹿嶌・佐藤夫妻も例外ではない。「せっかく都会で仕事をしているんだし、住むのも都会がいい、だから狭小地で全然構わないと思ったんです。ここでどんな都市住宅がつくれるのか、チャレンジしたかった」と佐藤さんが言えば、「問題点や規制が何かしらある、都市の中でこういうシチュエーションって、多いと思うんです。その中で、こうやれば光、風、プライバシーを確保できるという僕らなりの答えを、自邸を建てることで示したいと思いました。実際、この家を建てた後に同じような条件の人たちから設計を頼まれるようになりました」と鹿嶌さんも話す。 内外コンクリート打放しなので、断熱は屋根以外していない。断熱を施さなければ当然ながら冬寒く、夏暑いという厳しい環境になる。それを承知で断熱しなかった理由を聞いてみた。「この建物では、打放しコンクリート、木、スチールなどの素材感の力強さを表したかったんです。だからまずは打放しのままでつくって、住んでみて寒さや暑さが我慢できなかったら、断熱など対策をその時考えればいい。できる範囲でつくって、やれるところまでやってみようよ、常に変えればいいんだから、ということでスタートしました」(鹿嶌さん) その言葉通り、足りない部分は住んでからプラスしていくことにして、まずはマキシマムなヴォリュームを確保した空間に、ミニマムな設備をレイアウトして室内をつくり上げた。室内で扉があるのはバスルームとトイレだけ。建築コストを抑えるためと、互いが個室にこもりたいという希望もなかったので、家全体を一つの空間として、至ってシンプルな構成にしたのだ。 しかし夫妻も、最初からそこまで割り切れていたわけではない。「設計当初の図面は、玄関もお風呂も大理石貼りだったんですよ。キッチンやダイニングにも食器棚を描いていましたし。でも逆に、住み手の方にこの家を見せて、必要なら後でつくればいいんですよ、と実際に示せるのがいいですね。住んで約5年になりますが、建物ができて1年後に書斎の本棚とデスクをつくって、そのまた1年後にルーフテラスのウッドデッキとテーブルをつくったんです。考えるのが楽しいですね、使いながら『次はここをああしよう』とか。家って変わっていっていいんだと思います。そうして家も生きてくるね」と言う佐藤さんに鹿嶌さんが「そうだね」と続け、住み手の家でも、建てた後の変化や成長を一緒に考え、ある程度変化を想定して設計するという。 チャレンジとしての意味も含めて自邸を建て、住んで5年が経った。屋上階、3階、2階それぞれに設けた窓から一日中、順番に自然光が入り、夏は開けた窓を抜けていく風が心地よいという。今この家にどんな感想を持っていますか、と聞いてみた。佐藤さんが、「そうですね……」とちょっと考えてから、答えてくれた。「設計する時にはいつも、『ちょうどいい空間』にしたいと思うんです。大き過ぎず、小さ過ぎず、と。住み手によってその答えは違うんですが、そういう意味でこの家は、私たちにとってちょうどいい空間になったかな、と思います。書斎とか屋上テラスはいつも使うわけではないけれど、普段使わないスペースがすごく有効だということにも気付きました。2階リビングのソファから南側を見上げると、8mぐらい視線が抜けるんです。書斎やルーフテラスという小さい空間をつなげて一つに広げ、ゆとりをもたせているんですね。そういうことが、どこにでもある細長い18坪の敷地でできるんだと」 住み手との設計打合せは必ず二人一緒に出るという鹿嶌さんと佐藤さん。住み手にも、「この家に口とお金を出す方は全員参加してください、とお願いする」(笑)のだとか。 歩いて3分の設計事務所に、2匹のイタリアングレーハウンドと毎日出勤する夫妻は、とても仲がよさそうにお見受けした。庭がないから、せめてアプローチの両側には壁でなく、植栽を植えるスペースを設けたんです、と穏やかに話してくれた夫妻の笑顔は、住宅と同様に素敵だと思った。
建築家の自邸を訪ねて
ReplyDelete敷地18坪に建てたコンクリート打放し住宅 鹿嶌信哉+佐藤文 邸
家の時間
http://www.ienojikan.com/toptopics/architect/20090128.html
東急田園都市線の用賀駅から徒歩5分という便利な場所に、鹿嶌さんと佐藤さん夫妻は運よく土地を見つけることができた。
ReplyDeleteただし広さは約18坪。前面道路のある北西側以外は隣家に囲まれている、いわゆる都市の狭小敷地だ。
加えて、建物の高さ制限などを定めた法規制である「用途地域」が、敷地の途中から分かれてしまっている。前面道路側が第2種低層住居専用地域で、奥側は第1種住居地域なのだ。
「最初に土地を見に来た時、地面に全然光が当たっていなかったから、どうやって光を一日中入れるかを、模型をつくって考えました」(鹿嶌さん)。
困難な条件ほど設計魂を掻き立てられるのが、建築家という人たち。もちろん鹿嶌・佐藤夫妻も例外ではない。
「せっかく都会で仕事をしているんだし、住むのも都会がいい、だから狭小地で全然構わないと思ったんです。ここでどんな都市住宅がつくれるのか、チャレンジしたかった」と佐藤さんが言えば、
「問題点や規制が何かしらある、都市の中でこういうシチュエーションって、多いと思うんです。その中で、こうやれば光、風、プライバシーを確保できるという僕らなりの答えを、自邸を建てることで示したいと思いました。実際、この家を建てた後に同じような条件の人たちから設計を頼まれるようになりました」と鹿嶌さんも話す。
内外コンクリート打放しなので、断熱は屋根以外していない。断熱を施さなければ当然ながら冬寒く、夏暑いという厳しい環境になる。それを承知で断熱しなかった理由を聞いてみた。
「この建物では、打放しコンクリート、木、スチールなどの素材感の力強さを表したかったんです。だからまずは打放しのままでつくって、住んでみて寒さや暑さが我慢できなかったら、断熱など対策をその時考えればいい。できる範囲でつくって、やれるところまでやってみようよ、常に変えればいいんだから、ということでスタートしました」(鹿嶌さん)
その言葉通り、足りない部分は住んでからプラスしていくことにして、まずはマキシマムなヴォリュームを確保した空間に、ミニマムな設備をレイアウトして室内をつくり上げた。室内で扉があるのはバスルームとトイレだけ。建築コストを抑えるためと、互いが個室にこもりたいという希望もなかったので、家全体を一つの空間として、至ってシンプルな構成にしたのだ。
しかし夫妻も、最初からそこまで割り切れていたわけではない。
「設計当初の図面は、玄関もお風呂も大理石貼りだったんですよ。キッチンやダイニングにも食器棚を描いていましたし。でも逆に、住み手の方にこの家を見せて、必要なら後でつくればいいんですよ、と実際に示せるのがいいですね。住んで約5年になりますが、建物ができて1年後に書斎の本棚とデスクをつくって、そのまた1年後にルーフテラスのウッドデッキとテーブルをつくったんです。考えるのが楽しいですね、使いながら『次はここをああしよう』とか。家って変わっていっていいんだと思います。そうして家も生きてくるね」と言う佐藤さんに鹿嶌さんが「そうだね」と続け、住み手の家でも、建てた後の変化や成長を一緒に考え、ある程度変化を想定して設計するという。
チャレンジとしての意味も含めて自邸を建て、住んで5年が経った。
屋上階、3階、2階それぞれに設けた窓から一日中、順番に自然光が入り、夏は開けた窓を抜けていく風が心地よいという。
今この家にどんな感想を持っていますか、と聞いてみた。佐藤さんが、「そうですね……」とちょっと考えてから、答えてくれた。
「設計する時にはいつも、『ちょうどいい空間』にしたいと思うんです。大き過ぎず、小さ過ぎず、と。住み手によってその答えは違うんですが、そういう意味でこの家は、私たちにとってちょうどいい空間になったかな、と思います。書斎とか屋上テラスはいつも使うわけではないけれど、普段使わないスペースがすごく有効だということにも気付きました。2階リビングのソファから南側を見上げると、8mぐらい視線が抜けるんです。書斎やルーフテラスという小さい空間をつなげて一つに広げ、ゆとりをもたせているんですね。そういうことが、どこにでもある細長い18坪の敷地でできるんだと」
住み手との設計打合せは必ず二人一緒に出るという鹿嶌さんと佐藤さん。住み手にも、「この家に口とお金を出す方は全員参加してください、とお願いする」(笑)のだとか。
歩いて3分の設計事務所に、2匹のイタリアングレーハウンドと毎日出勤する夫妻は、とても仲がよさそうにお見受けした。庭がないから、せめてアプローチの両側には壁でなく、植栽を植えるスペースを設けたんです、と穏やかに話してくれた夫妻の笑顔は、住宅と同様に素敵だと思った。