Sunday, November 14, 2010

孫文

今私が大アジア主義を講演しますに当って述べました以上の話は、どんな問題であるかと申しますに、簡単に言いますと、それは文化の問題であります。東方の文化と西方の文化との比較と衝突の問題であります。東方の文化は王道であり、西方の文化は覇道であります。王道は仁義道徳を主張するものであり、覇道は功利強権を主張するものであります。仁義道徳は正義合理によって人を感化するものであり、功利強権は洋銃大砲を以て人を圧追するものであります。感化を受けた国は、仮令宗主国が衰微しても、数百年の後に至る迄、なお其の徳を忘れるものではないと言うことは、ネパールが今日に於てもなお且つ中国の感化を切望し、中国を宗主国として崇拝しようとして居る事実に依って明らかであります。これに反して圧迫を受ければ、仮令圧追した国が非常に強盛であろうとも、常に共の国家より離脱せんとするものであることは、英国に対するエジプトおよびインドの関係がこれを示して居ります。即ち英国はエジプトを征服しインドを滅し、現在非常に強盛となって居りますが、エジプトおよびインドは常に英国より難脱しようとして居ります。これが為彼等は盛に独立運動を起して居ります。……我々は今こう言う世界に立って居るのでありますから、我が大アジア主義を実現するには、我々は何を以て基礎としなければならないかと言いますと、それは我が固有の文化を基礎にした道徳を講じ、仁義を説かねばなりません。仁義道徳こそは我が大アジア主義の好個の基礎であります。斯くの如き好個の基礎を持って居る我々が、なお欧州の科学を学ぽうとする所以は工業を発達させ、武器を改良しようと欲するが為に外なりません。欧州を学ぶのは決して他国を滅したり、他の民族を圧追したりすることを学ぶのではないのであります。唯だ我々はそれを学んで自衛を講じようとするのであります。
我々が大アジア主義を説き、アジア民族の地位を恢復しようとするには、唯だ仁義道徳を基礎として各地の民族を連合すれば、アジア全体の民族が非常な勢力を有する様になることは自明の理であります。
さて最後に、それならば我々は結局どんな問題を解決しようとして居るのかと言いますと、圧迫を受けて居る我がアジアの民族が、どうすれば欧州の強盛民族に対抗し得るかと言うことでありまして、簡単に言えば、被圧迫民族の為に共の不平等を撤廃しようとして居ることであります。
我々の主張する不平等廃除の文化は、覇道に背叛する文化であり、又民衆の平等と解放とを求める文化であると言い得るのであります。貴方がた、日本民族は既に一面欧米の覇道の文化を取入れると共に、他面アジアの王道文化の本質をも持って居るのであります。今後日本が世界文化の前途に対し、西洋覇道の鷹犬となるか、或は東洋王道の干城となるか、それは日本国民の詳密な考慮と慎重な採択にかかるものであります。

2 comments:

  1. 1924年12月28日神戸高等女学校において神戸商業会議所外5団体におこなった講演

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  2. 孫文が中国人であったこと、日本からは孫文のような人間が出なかったことの理由を、考えなければならない。

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