かく言う自分も、恥ずかしながら、部分的に読んだことがある程度。なぜなら、原文の流麗な美しいリズムを持つ雅文体が、とにかく難しいからだ。だが、そんな原文の抜粋と現代語訳、さらに時代背景などをコラムで掘り下げた、「やさしく深い『金色夜叉』テキスト」ともいえる本が登場している。『ビギナーズ・クラシックス 近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』(山田有策著/角川ソフィア文庫)だ。同シリーズではこれまで鴎外『舞姫』、一葉『たけくらべ』、漱石『こころ』、芥川龍之介等、比較的ポピュラーな作品を扱ってきたのだが、なぜ今回『金色夜叉』を? 著者の山田有策先生に聞いた。「名前だけは誰でも知っているけれど、99%の人は全編を通して読んだことのない作品ということが1つ。また、誰もが知っている名場面・名ゼリフがあるというのが大きな理由です」思えば、昔から、まして現代で「誰もが知っている場面・セリフがある」作品は、どれだけあることだろうか。また、パロディが作られるのは、吸引力の強い作品の証でもある。「さらに、未完で終わったという最大の謎も魅力となっています。そのために、当時から結末を知りたいという声が非常に多く、終編や別の登場人物を主人公にした作品が多数生まれたり、さらにはモンゴルやロシアで活躍したり、スケールの大きな話まで出ているんですよ」さて、粗筋だけ見れば、銀行家に婚約者・宮を奪われた貫一が、高利貸しとなり、金の亡者となって復讐を誓う……という単純なものに思えるが、本書で改めて知ったのは、 貫一の復讐劇には主題が置かれていないということ。なぜなら、貫一を取り巻く女性たちの激しさ・情熱に比べ、貫一は逃げてばかりであり、「夜叉」の迫力はない。むしろ、貫一の「夢」として描かれる心象風景に、「憎む」ことから解放されたい思いを見るようで、宮を許す瞬間がいつくるかに読者の関心も移っていく。ただし、難しい『金色夜叉』をまるで芝居や映画を観るようにするすると読めてしまうのは、本書がよくある「原文→現代語訳」の流れではなく、「現代語訳→原文→コラム」の順に、やさしいところから入り、深く深く掘り下げる構成になっているからだろう。「文学作品自体を読まない人にとっては、この本の256ページというのが限界のボリュームです。本当は膨大な資料や盛り込みたいコラムもたくさんありましたが、涙をのんで、精査を繰り返し、絞り込みました」とは担当編集者の言葉。ちなみに、文学史の登場順から、ずいぶん後に生まれた印象のある夏目漱石が、実は尾崎紅葉と同学年であったりと、明治の文豪たちの関係性・影響などを知ることができるのも面白い。やさしく読めるテキストを頼りに、もう一度、明治文学に触れてみませんか。
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1292338214246.html
かく言う自分も、恥ずかしながら、部分的に読んだことがある程度。なぜなら、原文の流麗な美しいリズムを持つ雅文体が、とにかく難しいからだ。
ReplyDeleteだが、そんな原文の抜粋と現代語訳、さらに時代背景などをコラムで掘り下げた、「やさしく深い『金色夜叉』テキスト」ともいえる本が登場している。
『ビギナーズ・クラシックス 近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』(山田有策著/角川ソフィア文庫)だ。
同シリーズではこれまで鴎外『舞姫』、一葉『たけくらべ』、漱石『こころ』、芥川龍之介等、比較的ポピュラーな作品を扱ってきたのだが、なぜ今回『金色夜叉』を? 著者の山田有策先生に聞いた。
「名前だけは誰でも知っているけれど、99%の人は全編を通して読んだことのない作品ということが1つ。また、誰もが知っている名場面・名ゼリフがあるというのが大きな理由です」
思えば、昔から、まして現代で「誰もが知っている場面・セリフがある」作品は、どれだけあることだろうか。また、パロディが作られるのは、吸引力の強い作品の証でもある。
「さらに、未完で終わったという最大の謎も魅力となっています。そのために、当時から結末を知りたいという声が非常に多く、終編や別の登場人物を主人公にした作品が多数生まれたり、さらにはモンゴルやロシアで活躍したり、スケールの大きな話まで出ているんですよ」
さて、粗筋だけ見れば、銀行家に婚約者・宮を奪われた貫一が、高利貸しとなり、金の亡者となって復讐を誓う……という単純なものに思えるが、本書で改めて知ったのは、 貫一の復讐劇には主題が置かれていないということ。
なぜなら、貫一を取り巻く女性たちの激しさ・情熱に比べ、貫一は逃げてばかりであり、「夜叉」の迫力はない。むしろ、貫一の「夢」として描かれる心象風景に、「憎む」ことから解放されたい思いを見るようで、宮を許す瞬間がいつくるかに読者の関心も移っていく。
ただし、難しい『金色夜叉』をまるで芝居や映画を観るようにするすると読めてしまうのは、本書がよくある「原文→現代語訳」の流れではなく、「現代語訳→原文→コラム」の順に、やさしいところから入り、深く深く掘り下げる構成になっているからだろう。
「文学作品自体を読まない人にとっては、この本の256ページというのが限界のボリュームです。本当は膨大な資料や盛り込みたいコラムもたくさんありましたが、涙をのんで、精査を繰り返し、絞り込みました」とは担当編集者の言葉。
ちなみに、文学史の登場順から、ずいぶん後に生まれた印象のある夏目漱石が、実は尾崎紅葉と同学年であったりと、明治の文豪たちの関係性・影響などを知ることができるのも面白い。
やさしく読めるテキストを頼りに、もう一度、明治文学に触れてみませんか。
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1292338214246.html
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