Monday, August 20, 2012

日高敏隆

母性愛というのは動物行動学では否定されてます。ようするに、自分の血のつながった子孫をとにかくたくさん残したい。それには赤ん坊だから育てなくちゃいけないんで、一生懸命育てる。その時に、一体それは誰の得になるのかという問題ね。母親にしてみれば自分の血のつながった子孫が増えてもらいたいというのは母親の得になります。そのためには育てなければいけない。しかも、その時その赤ん坊は自分が生んだ子供だから絶対自分の血がつながった赤ん坊なんだ。これを育て上げないと自分の子孫は増えないわけですね。そのために一生懸命やってるんで、本当は自分のためにやってることで、赤ん坊が可愛くてやってることじゃないんだということになっちゃうんです。
だから母性愛なんてなくて、それは母親のエゴである、ということになってるんです。その証拠、という例があってね。これ、随分残酷な話なんですが、ネコが子供を生むでしょ、5匹ぐらい。その中で1匹だけどういうわけかわからないけど、小さくてヒヨヒヨしてるのがいる。そうするとたいていの場合、母ネコはヒヨヒヨしてる子ネコには乳をやらないんです。3日ぐらいやらないと飢え死にしちゃうんです。飢え死にするとたいてい母ネコはその子ネコを食っちゃいます。自分の子供ですよ。で、これはなんだ、と。残酷といえば残酷なんだけど、でも、この母ネコにすれば自分の子供が可愛いんじゃなくて、自分の血のつながった子孫ができるだけ増えて欲しいと思ってるから、今このヒヨヒヨした子供に自分の限りある乳をやっても多分育たないだろうと。そうするとその乳をやったことは無駄な投資になる。だからそれは見殺しにして、乳は将来見通しのある4匹の丈夫なほうにやる。しかも死んだ子ネコをおなかの中で育てるのに、相当な栄養をやっている、つまりコストがかかってますから、それを取り返すべく食べちゃう。そのタンパク質を取り返してミルクにしてちゃんとした子供に与える。というようなことまでやっているのではないか。このどこに母性愛があるか。
そういう例が実は非常にたくさんあるんです。だから母性愛なんていうのは人間がヒョイと考えた、ある種の美しい幻想にすぎないのではないかということになってるんですよ。

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