Monday, December 10, 2012

駒宮幸男

素粒子物理学は革命前夜である。

2 comments:

  1. http://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/komamiya/

    素粒子物理学は革命前夜である。
    現在の素粒子の「標準理論」を超えて、新たなパラダイムへの転換が、次世代の最高エネルギーの加速器によって確実にもたらされるであろう多くの実験的・理論的証拠がある。
    本研究室は、過去に行なってきた幾つかの国際協力実験での経験とその成果をふまえ、エネルギーフロンティア加速器 (リニアコライダー、LHC)における国際協力実験への主導的な参加や、リニアコライダー加速器の技術開発、 小規模実験の展開などあらゆる手段を駆使して、素粒子物理学の根源的な問題の実験による解決を目指している。
    現在、電子・陽電子衝突の国際リニアコライダーILC計画を、わが国の素粒子実験コミュニティーとともに主導的に推進している。ここでは、質量の起源、新たな時空の対称性、宇宙創成などの本質的な物理を目指す。ILCで物理の検討、実験のための測定器の開発研究、加速器自体の開発研究も行なっている。
    2008年にはCERNの陽子・陽子の最高エネルギー粒子衝突型加速器LHCが運転を開始し、素粒子物理国際センターはわが国の物理解析の拠点となっている。 ここでの物理解析の検討も素粒子センターと協力して行なっている。
    また、以下のような本質的な物理が追求可能な比較的小規模な実験や将来の素粒子実験の為の測定器の開発なども行なっている
    超冷中性子を用いた地球重力での量子効果の測定実験の準備
    ILCの最終収束系のテスト加速器 ATF2 における新竹ビームサイズモニターの構築及び試験
    中国の電子・陽電子コライダーBEPC-IでのBEPC-II実験のデータ解析 と、アップグレードした加速器 BEPC-II におけるBES-III実験のTOF測定器の製作
    このように、あらゆる手段を駆使して、素粒子物理学の根源的な問題の解決を目指す。
    大学院生は、エネルギーフロンティアの大型国際実験に参加して国際舞台にデビューする前に、これらの比較的小規模な実験や測定器の開発研究を行なって十分な経験を積むことができる。様々な最先端の研究を通して大学院生の教育を行ない、国際的に通用する広い視野を持った研究者を育てていきたい。
     
    「標準理論」を越えて素粒子物理のパラダイム転換を目指す
    現在の素粒子の「標準理論」では、物質を形成する最も基本的な素粒子はクォークとレプトンがであり、これらの間に働く力はゲージ原理によって統一的に理解されている。これらの力(相互作用)は重力相互作用、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用の4種類あるが、重力は他の3種の力とは違ってまだ量子力学では説明できていない。即ち、量子重力理論は完成していない。
    「標準理論」は、現在までに観測されている素粒子現象を正しく記述している様に見えるが、とても究極の理論とは考え難い。その問題点を挙げると、
    重力相互作用を無視している。
    なぜ3種類の相互作用(電磁・弱・強)が存在するのか理解されていない。
    質量の起源「ヒッグスボゾン」が発見されていない。
    何故3世代のクォークとレプトンが存在するかの説明がなく、質量や素粒子混合のパラメータが多すぎる。ニュートリノの質量が何故小さいかも理解されていない。
    などがすぐに挙げられる。
    粒子相互衝突型加速器(コライダー)であるCERNのLHCや電子・陽電子リニアコライダーILCでの実験において、質量の起源である「ヒッグスボゾン」や、重力をも統一する可能性を唯一秘める「超対称性理論」で期待される粒子群の直接的な発見と、その徹底した研究から、素粒子物理学の新たなパラダイムの構築を目指す。このため、これらの加速器で期待される新粒子や新現象を捉えるための、測定器開発や物理解析の準備、更にリニアコライダーの加速器技術の開発が研究活動の主たる課題である。
     
    壮大な宇宙史を研究する宇宙論と極微な世界を探る素粒子物理の深い関係
    より高いエネルギーの素粒子反応を起こして実験することは、高温即ち高エネルギーの宇宙の初期により近づくことであり、宇宙初期において普通に起っていた素粒子反応を実験室で一瞬実現することである。一方、最近の宇宙の観測によって宇宙のエネルギー組成が解明されだした。これらの観測によると恒星や星間ガスを構成している陽子、中性子、電子などのような我々が知っている物質が担っているエネルギーは約4%に過ぎない。宇宙のエネルギー密度の殆どは、宇宙の加速的な膨張と関係する暗黒エネルギー(約73%)や、暗黒物質(約23%)がそのほとんどを占めるという驚くべき事実がわかってきた。暗黒物質は、重力によって集まり、我々の銀河には 1cc の体積につき陽子の質量の約1/3のエネルギーの密度で存在することが分かっている。即ち、宇宙の全エネルギーの96%は解明されていない。暗黒物質や暗黒エネルギーの起源を素粒子物理に求める試みも行なわれつつあり、極微の世界を探求する素粒子物理と壮大な宇宙物理は、もは や一つの大きな学問分野として融合されつつある
    宇宙と関連して素粒子物理をみれば、さらに多くの謎がある。
    何故我々の住んでいる時空は空間3次元、時間1次元なのか
    宇宙の暗黒エネルギーの正体は何なのか
    暗黒物質は何から出来ているか
    宇宙の物質・反物質の不均衡の起源は何か
    これらの疑問は宇宙物理と素粒子物理の融合によって解決の糸口が見い出されるに違いない。例えば、暗黒物質の最有力候補は最も軽い超対称性粒子であり、これはLHCや国際リニアコライダーILCで発見・研究される可能性が強い。更に、ヒッグス粒子を発見・研究すれば、真空の構造と質量の起源が結び付き宇宙の暗黒エネルギーの起源に迫るヒントを得られるかも知れない。全ての素粒子の性質は隠れた次元の空間の構造で決まっていると言うのが究極の「超弦理論」であるが、隠れた次元のヒントが高エネルギー素粒子実験で得られるかも知れない。
     

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  2. 素粒子実験の王道はエネルギーフロンティアでの実験である
    高エネルギー素粒子実験では、世界最大の衝突エネルギーを持つエネルギーフロンティアの加速器を世界中で競って建設してきた。人類未踏の高エネルギー領域では、理論家が思いもよらなかった新粒子が生成されたり、新しい素粒子現象が生ずる可能性があるのだ。従って素粒子実験の王道はエネルギーフロンティアでの実験である。
    量子力学によるとミクロな粒子は波としての性質を持つ。この粒子波の波長は粒子の運動量に反比例する。
    p = h / λ
    短い波長の波を観測対象にぶつけると、その波長程度の構造を観測することが出来る。例えば、海原の大波ににテニスボールを浮かべてもボールは上下するだけだが、風呂にテニスボールを浮かべてボールのサイズと同じくらいの波長の平行波をボールにぶつければ、波はボールで散乱・回折された後広がっていきボールを風呂の蓋で隠してもその存在が分かる。
    従って、物質のより小さな構造を探ろうとすれば、出来る限り小さな波長で見る必要があり、これは大きな運動量(エネルギー)の粒子をぶつけることに他ならない。
    ラザフォードは放射線崩壊で生じた当時としては高いエネルギーの α線(ヘリウムの原子核)を薄い金箔にぶつけて原子の構造を解明した。ほとんどのα粒子は曲がらずに金箔をすり抜けるが、たまに大きな角度で散乱されるα粒子の角度分布と数を測定し、原子はほとんどスカスカで硬い芯(原子核)があることを発見した。今日、我々が行なっている素粒子実験も本質的にはこれと同じ原理で、より高い運動量(エネルギー)の粒子をぶつけてより微細な構造を研究する。
    まだ発見されていない新しい粒子は、必然的に重い。Einstein のエネルギーと質量の等価則
    E = mc2
    によると、大きな質量 m を持つ新粒子を生成しようとすれば、高いエネルギーの衝突反応で生成しなければならないので、高いエネルギーの加速器の建設は、この意味においても必然的である。
    1930年代にローレンスが初めての加速器である半径約13センチメートルのサイクロトロンを作った。荷電粒子は磁場中でローレンツ力をうけ円軌道を描く。円軌道の半径は粒子の運動量に比例するので、加速されれば半径は大きくなる。サイクロトロンの磁場は一定なので加速されれば軌道は大きくなってしまう。シンクロサイクロトロンは加速されるに伴って磁場を強くして、粒子の軌道を円形の真空パイプに閉じ込めることを可能とした。第二次世界大戦後、いくつもの加速器技術のブレークスルーによって加速器の加速エネルギーは著しく上がった。始めは加速した粒子を標的にぶつけて実験していたが、反対向きに加速した粒子を正面衝突させる相互衝突型加速器(コライダー)が、1970年代初めに出現し、反応エネルギーが画期的に増強された。
    今までの世界最大の電子・陽電子コライダーはスイス・ジュネーブのCERNにある電子・陽電子コライダーLEPである。LEPは山の手線の周囲に匹敵する直径27キロメートルのほぼ円形コライダーである。LEPは地下50~150メートルのトンネルに設置されていた。現在このトンネルは、陽子・陽子を世界最高エネルギーで衝突させるLHC(Large Hadron Collider) が2008年から稼働を開始しており、現在重心系エネルギー7TeVの世界最高エネルギーで稼働している。
     
    リニアコライダーとは
    電子と陽電子は素粒子とみなすことが出来るので、e+e-衝突では素粒子の素過程をほとんどありのまま観測できるという本質的利点を有する。従って、実験は容易であり、理論的な予測も正確である。 また、電子と陽電子は粒子・反粒子の関係にあるので対消滅して、全ての衝突エネルギーを新たな粒子の生成に用いることが出来る。従って衝突エネルギーさえ高ければ、質量の重い新粒子を素過程で生成できる。
    しかし、電子や陽電子は軽いので、円軌道を回ると放射光(シンクロトロン輻射)を出してエネルギーを失う。軌道一周あたりに放射光の放出で失う粒子のエネルギーΔE は粒子のエネルギー E の4乗に比例し、粒子の質量 m の4乗と軌道半径 r に反比例する。
    ΔE ∝ (E / m)4 / r
    LEPよりも大きな衝突エネルギーの円形の電子・陽電子のコライダーはそのサイズと予算を考えると現実的ではない。 このため、今後の高エネルギーの電子・陽電子コライダーは放射光放出のない直線型相互衝突加速器(リニアコライダー)となることが必須である。
    円形加速器では粒子を回して周回毎に加速することが出来たが、リニアコライダーでは直線で一挙に最終エネルギーまで加速するため、加速器を短く保つには加速勾配を上げる必要がある。 また、衝突点ではビームを非常に小さく絞り込んで電子や陽電子の密度を上げ衝突頻度を増やし、エネルギーのバラツキも小さくする必要がある。 このためには衝突点でのビームを絞り込むシステム(Final focus system)の開発はもとより、線形加速器に入れる前にビームを十分に絞りこむ前段システム(ダンピングリングなど)の開発が必要となる。 主線形加速器は同じユニットの繰返しであり、このユニットはクライストロンと呼ばれる高周波発生装置とその電源(クライストロン・モジュレータ)、および超電導加速管からなる。 わが国では、KEK・大学とわが国の産業界との強力な連携のもとでこれらの加速器機器の開発研究を行なっている。
    リニアコライダー加速器技術の開発は、1980年代から日本、米国、ドイツで行なわれてきた。激しい国際的競争と同時に国際協力も行なわれている。 国際リニアコライダー ILCは、将来国際協力によって建設・運転されるだろうが、先ずは開発研究の段階から、国際的な組織で行なう必要がある。 国際的な研究開発組織の構成や運営は、ICFA(International Future Accelerator Committee)の元にILCSC( International Linear Collider Steering Committee) が組織され検討をしてきた。 これらの委員会にはわが国からは高エネルギー加速器研究機構の鈴木機構長と、本研究室の駒宮が参加している。 2004年8月には、ILCの主加速器の技術に超電導加速空洞を用いることが国際的に決まり、プロジェクトに弾みがついた。 ILCの開発研究の組織はGDE(Global Design Effort) と呼ばれ、ILCSCはBarry Barish 氏(米国)を所長に選んだ。2012年の終わりには、加速器の工学設計がまとまり、同様に測定器の工学設計も提案される。
    わが国の研究者は国際リニアコライダーILCをわが国へ誘致するため、わが国における国際組織の検討やサイトの科学的な検討検討などを行なってきた。現在いくつかのの有力なサイトが候補に上がっている。

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