Saturday, December 15, 2012

坂本龍一

いまの日本は、9.11直後のアメリカにちょっと近いのかもしれないね。いま話すと冗談みたいだけど、あのときはラジオでジョン・レノンの「イマジン」をかけてもバッシングをされたんだよ。
(歌詞の中の「国も宗教もないさ」っていう部分が) 愛国ムードを逆なでするっていうことでダメだったんだよね。いわゆる自主規制というやつ。これって、原発安全神話にもすごく近いよね。そういう集団ヒステリーっていうのは、どこの国でも起こるんじゃないのかな。
いいたいことがいえない社会っていうのはよくないよね。テーマがなんであっても、人はいいたいことをいっていいはずなんだよ。
原発についてはさ、すぐ「代替案を示せ」っていわれちゃうじゃない。だけど「殺人はよくない」という意見に対して、もし反対する人がいるとしてね、そこで「人殺しがダメなら代替案を示せ」とはいわないわけでしょ。それとおなじだと思う。
専門家じゃない人間だって、代替案のない人間だって、「こわい」「不安だ」「こどもの将来はどうなるんだろう」とかいっていいんだよ。だって、それはそう思ってるんだから、そう思ってるってことを表現していい。
「代替案を示せ」っていわれちゃうとさ、こっちは素人だからなにも案を示す必要なんてないのに、一瞬、発言しちゃいけないような気にさせられちゃう。だからあれはなかなか攻撃的な言葉だと思う。僕は居直って、「代替案なしでしゃべって何が悪い!」って思いますけどね。
エネルギー政策の代替案をつくるっていうのは、本来、専門家の仕事なんだから。それを大阪の橋下市長は、新聞がその専門家だと思っちゃったのか「脱原発するっていうなら朝日か毎日あたりが原発ゼロの具体的行程表をつくれ!」なんて命令口調でいってましたけどね。あれはちょっと、「大丈夫かな、この人」と思っちゃいましたね。

5 comments:

  1. 坂本龍一さん、どうして音楽家なのに脱原発なんですか?
    もんじゅ君の「ズバリ聞きますだよ!」
    第1回

    http://blogos.com/article/52244/?axis=&p=2

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  2. 福島第一原発事故にショックを受けて、2011年5月、突如ツイッター上に現れたもんじゅ君。福井県敦賀市の高速増殖炉もんじゅの「非公式」ゆるキャラながら、フォロワー数は約10万人、エネルギー問題を解説した著書も3冊あるなど、幅広い支持を得ている「炉」のキャラクターです。

    このもんじゅ君が、各界の著名人にエネルギー問題についての考えや東日本大震災以降の活動について聞く、シリーズインタビューを開始します。

    第1回は、ニューヨークを拠点に世界的に活躍する音楽家でありながら、震災以前から脱原発を積極的に訴える坂本龍一さんを迎えて、なぜ脱原発や環境問題に深くコミットするのかや、今年7月に幕張メッセで行われた音楽フェス「NO NUKES 2012」開催の裏話などをお聞きしました。
    前・後編に分けてお送りします。

    ゲスト:坂本龍一(音楽家)
    インタビュー・構成:もんじゅ君(高速増殖炉)

    坂本さん、どうして音楽家なのに脱原発なんですか?

    もんじゅ:坂本さん、おひさしぶりです。

    坂本:こんにちは、もんじゅ君。あいかわらず大きくてフカフカだよね(もんじゅ君の帽子をなでる)。

    もんじゅ:ふふ。坂本さんとは8月に福島で開催されたフェスティバルFUKUSHIMA!でお会いして以来です。

    坂本:そうだね。元気だった?

    もんじゅ:はい。でも、福島第一原発くんも、むりやり再稼働させられてる大飯原発くんもかわいそうで、いつも気になっています。

    坂本:そっか……、心配だよね。

    もんじゅ:今日は坂本さんに、このBLOGOSさんの場をお借りして、いろいろ聞いてみたかったことを質問しようと思っていて。

    坂本:うんうん。どうぞ。

    もんじゅ:じゃあまず、これはよくある質問かもしませんが、どうして坂本さんはミュージシャンなのにそんなに一生けんめいに原発問題について意見を発信したり、行動したりしてるんでしょうか。

    坂本:あ、それは意外と質問されたことないなぁ。

    もんじゅ:えっ、そうですか。なんで音楽家なのに、脱原発なんだろう、って考えて。

    坂本:うーん、これはべつに「ミュージシャン」っていう職業は関係ないと思うんだよね。たとえばさ、これは僕の考えだけど、魚屋さんでも肉屋さんでも八百屋さんでもミュージシャンでも、「人を殺しちゃいけない」とか「泥棒はしちゃいけない」っていう感覚はあるよね。それと同じことだと思うんだよ。

    あれだけの巨大事故を目の当たりにしたらさ、「あれはないよね」って思うのが庶民の感覚でしょう。僕が「原発をやめよう」っていっているのは、ただそれだけのことなんだよね。

    もんじゅ:音楽家だから、とかいうことじゃなくて、シンプルな感覚が動機なわけですね。

    「あれはないよね」っていうシンプルな感覚が出発点

    坂本:そうそう。僕はたまたま3.11の事故が起こる前からそういう情報を持っていたから、人よりも知るのが少し早かったというだけだと思うよ。

    もんじゅ:坂本さんは、2006年から「ストップ・ロッカショ」を主宰されたり、脱原発運動に関わっていましたよね。

    坂本:うん。この「原発はあぶない」っていうのは感覚的なものなんだよね。僕はべつに放射能の専門家じゃないわけで、ただひとりの市民として、感覚的に「危険だ」と感じているだけ。とはいえ実際、チェルノブイリでの子どもたちの悲惨な写真なんかも見ているからね……。

    チェルノブイリの事故は、いまも記憶にも鮮明に残ってるよ。だけどあのときはやっぱり遠い国のできごとで、なにか運動を始めたりはしなかった。対岸の火事というか、当事者じゃなかったんだと思う。今はそのことを反省してるけど……、しょうがないね。

    もんじゅ:チェルノブイリのあと、日本でも脱原発運動は一時期盛り上がったけれど、そのあとまたもとに戻ってしまった、って聞いています。

    どれだけ危機を自分の問題として考えられるか

    坂本:今回の震災でも、関西の人達にはあまり危機感がないんだよね。だけど思い返してみたら、阪神淡路大震災のときには僕ももちろんショックを受けたんだけど、どれだけ自分のこととして、当事者として考えてたかっていうと、危機感の薄い部分があったかもしれない。だからしたかない面もあるんだろうなとは思うんだけどね。

    もんじゅ:そうですね、ボクの地元の福井でも、原発事故については、関東のみなさんにくらべて危機感が薄いかなって思います。若狭湾のまわりには商用原発だけで13基もあって、すごく密集してるわけですが。

    坂本:これだけ大きな福島の事故が起こった以上、日本中が当事者だと思う。稼働しているかどうかに限らず、すでに大量の放射性物質が日本中にあるわけで、危険なことには変わりないしね。そういうリスクのあるものを、そのまま放っておいていいとは思えない。

    もんじゅ:動かせばもっと危ないけれど、動かしてなくてもじゅうぶんに危ないですよね。

    坂本:そうそう。だから、「音楽家なのになんで脱原発なのか?」って聞かれても、べつにミュージシャンだから原発の話をしてるわけじゃないくて、職業は関係ないんだよね。

    人間というのは、ほんとうに保守的な生き物

    もんじゅ:坂本さんのたとえであった、「泥棒しちゃダメだよね」っていうのはたぶん誰からも反論がこないと思うんです。でも、「地震国の日本で原発使うのってダメだよね」っていうのはすぐに反論がかえってきますね。

    日常生活でも、ネット上でも、原発について話題にすることじたいがすごくハードルが高いんだと思います。「こわくて原発の話なんてできないよ」っていろんな人から相談されたこともありますし。

    坂本:それはやっぱり一種の情報操作っていうか、あれだけの大きな事故を見ても、この50~60年の洗脳がまだ効いちゃっているというか。そう考えたら、人間というのはほんとうに保守的な生き物だよね。

    福島の事故を見ればもう、どうすべきか明らかだと思うんだけど、まだやっぱり安全神話がどこかに残っているんだと思う。

    安全神話はかたちを変えてくりかえされている

    もんじゅ:安全神話といえば、福島の事故までは「事故は絶対に起こらない」と電力会社がくりかえしいっていましたよね。それが、IAEAの基準でレベル7っていう最悪クラスの事故を起こしてしまった。すると今度は「事故が起きても大丈夫」とか、「この断層は動かないから」とか、またべつの安全神話がつくりだされちゃってるな、と感じます。

    坂本:去年の事故の直後、6月ぐらいかな。文科省が日本中の学校の先生に指導書を配っていたんだよね。「放射能は安全だ」っていうことを、ここでも洗脳しようとしていたわけだよね。
    ・放射能を正しく理解するために 教育現場の皆様へ 文部科学省

    たとえば、原発反対派じゃなくてニュートラルな科学者達からも、チェルノブイリの影響で約100万人が亡くなっているという報告があったりする。で、チェルノブイリは原子炉がひとつだったけれど、福島では単純にいえばその4倍の4基がダメになったわけでしょう。これは大変な事態だと思うよね。なのに、どこかのほほんとしているように見えるのが不思議だと思うよ。

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  3. 原発問題にまつわる空気は、9.11後のアメリカに似ている

    もんじゅ:「原発は必要だ」っていうのはいままであたりまえとされてきた枠組みですよね。それを変えようとする発言はすぐ批判されちゃうなぁって感じるんです。やっぱり抵抗があるというか。

    坂本:うん。それはなにも日本に限らなくて、アメリカでもそうだと思うよ。9.11直後のアメリカはこの雰囲気に近かったなぁって思います。僕はニューヨークに住んでいるんだけど、あの事件のあとすごく恐い社会になったんですよね、何年間か。

    もんじゅ:えっ、その雰囲気って何年間もつづいたんですか?

    坂本:うん。9割以上のアメリカ人が愛国者になって、アメリカの憲法を上回るような「愛国法」なんかを認めてしまった。テロへの恐怖からすごくおそろしい社会になってしまって。

    だけど、アメリカのいいところなのかな、ブッシュの二期目のあたりで、だいぶもとに戻った感があったよ。半数以上の人が「これはおかしい」と考えだして揺り戻しがきた。

    9.11直後は、ジョン・レノンの「イマジン」さえ批判された

    坂本:いまの日本は、その9.11直後のアメリカにちょっと近いのかもしれないね。いま話すと冗談みたいだけど、あのときはラジオでジョン・レノンの「イマジン」をかけてもバッシングをされたんだよ。

    もんじゅ:えっ、「イマジン」で?!

    坂本:「イマジン」の歌詞の中に、「国も宗教もないさ」っていう部分があるじゃない。

    もんじゅ:それがひっかかっちゃうんですか。

    坂本:そうそう。愛国ムードを逆なでするっていうことでダメだったんだよね。いわゆる自主規制というやつ。これって、原発安全神話にもすごく近いよね。そういう集団ヒステリーっていうのは、どこの国でも起こるんじゃないのかな。

    もんじゅ:原発事故の直後も、ツイッターで「放射能がこわい」「どうなるんだろう」みたいなことをつぶやくと「現場でがんばっている人がいるのに」「不謹慎なこというんじゃない!」みたいな反論がすぐ返ってきたり、団結や「絆」を強調する雰囲気があった気がします。

    坂本:うーん。でも、そういう人は割合的に多くないと思うよ。

    もんじゅ:たしかに、やや極端な人だけが意見を主張している感はありました。のこりの8~9割の人は、不安はあるけれども黙っていたと思います。不安や疑問を口にすると反論されたり気まずくなる、というのもあったのかもしれないですね。

    だけど、問題に感じていても遠慮してひっこめちゃう、波風を立てたくなくて黙っちゃう、ということが積み重なって、けっきょくあんな事故が起きたんじゃないのかな、とも思うんです。空気を読み過ぎちゃうっていうか。

    代替案なんてなくても、「反対」「イヤだ」といっていい

    坂本:いいたいことがいえない社会っていうのはよくないよね。テーマがなんであっても、人はいいたいことをいっていいはずなんだよ。

    原発についてはさ、すぐ「代替案を示せ」っていわれちゃうじゃない。だけど「殺人はよくない」という意見に対して、もし反対する人がいるとしてね、そこで「人殺しがダメなら代替案を示せ」とはいわないわけでしょ。それとおなじだと思う。

    もんじゅ:代替案をつくることと、自分の意見を表すことはまた別物ですよね。

    坂本:専門家じゃない人間だって、代替案のない人間だって、「こわい」「不安だ」「こどもの将来はどうなるんだろう」とかいっていいんだよ。だって、それはそう思ってるんだから、そう思ってるってことを表現していい。

    「代替案を示せ」っていわれちゃうとさ、こっちは素人だからなにも案を示す必要なんてないのに、一瞬、発言しちゃいけないような気にさせられちゃう。だからあれはなかなか攻撃的な言葉だと思う。僕は居直って、「代替案なしでしゃべって何が悪い!」って思いますけどね(笑)。

    もんじゅ:ボクは「代替案出せ」ってあんまりいわれるので(笑)、勉強して再生可能エネルギーについての本を書きました(『もんじゅ君のみる!よむ!わかる!みんなの未来のエネルギー』・河出書房新社)。でも、ふつうの人が自分の意見を表明するのに、代替案までつくらなきゃいけないってことはないですよね。もしそれができれば、すごいことですけど。

    坂本:エネルギー政策の代替案をつくるっていうのは、本来、専門家の仕事なんだから。それを大阪の橋下市長は、新聞がその専門家だと思っちゃったのか「脱原発するっていうなら朝日か毎日あたりが原発ゼロの具体的行程表をつくれ!」なんて命令口調でいってましたけどね。あれはちょっと、「大丈夫かな、この人」と思っちゃいましたね。
    ・橋下徹氏Twitterでの発言

    危険が迫れば、避難するのはあたりまえ

    坂本:あとやっぱり、放射能って目に見えないから「安全だ」なんていう人も出てくるわけだけど、もしこれが山火事だったら、誰が見てもこわいし熱いからとりあえず逃げるよね? 僕は原発事故だってそれと同じだと思う。ただ、目に見えないからわかりにくいだけ。見えないからこそ、数字とか想像力で補わなきゃいけないんだよね。そのうえで危ないと判断すれば、逃げるのも当然だよ。

    もんじゅ:逃げるといえば、ある企業で、ひとつのチームがリーダーの判断で全員関西に避難したら、あとから社内で怒られちゃったっていう話を聞きました。事故直後に、情報のない中でとりあえず避難するっていうのは、合理的な選択だったと思うんだけど。

    坂本:僕の知ってるフランスのある企業も、日本支社はやはり1週間すべて閉めて、従業員みんなを関西に逃して様子を見たんだって。ところがデパートはふつうに営業してたから、そのブランドのテナントだけ閉まってて、デパートからはクレームが来ちゃったみたい。そこの会長は苦笑してたけどね。危険が予想されたら逃げるのはあたりまえなんだから、それを批判するのは非常識だと思うよ。

    とにかく若年層、無関心層が投票にいくことが重要

    もんじゅ:ところで、16日は衆議院総選挙ですよね。思ったより早く来ちゃったな、という気がしています。テレビや新聞のニュースでは原発も選挙の争点として扱われているけれども、投票するときには、実際みなさんそこだけで決められる話じゃないだろうから…。

    坂本:有権者の関心としては、経済がいちばんで、その次に年金などの自分の暮らしに関することがくるみたいだよね。その2つが30%ぐらいで、原発問題は10%前後みたいな感じかな。だから、自民党はあれだけ領土問題について熱心にやっているけど、有権者にとっては原発よりも優先度は低いみたい。

    ただ、原発問題を気にしている人が若年層に多いとすると、無関心層が多い、相対的にあまり投票にいかなさそうな人が多いのかな、と思っちゃうんだけどね。けっきょく投票率が低ければ、組織票の高いところが勝つわけでしょ。

    もんじゅ:これまで政治に関心のなかった人が、原発事故をきっかけに考えるようになった、という話もよく聞きます。そういう人は特定の政党を支持したりはしていないだろし。

    坂本:うん。いま(12月6日時点)、国民の半分はどこに投票するか決めていないらしいから、この半分が投票にいけば空気は動くと思うんだけどね。もしこの半分が投票しないままなら、あとの50%はほぼ組織票なわけで、大勢は決まっちゃうというか、あぶない感じがするな。

    だからやっぱり、投票にいってもらうっていうことがだいじですよね。

    もんじゅ:そうですね。投票にいくってほんとにだいじ。日本の人口ピラミッドでみると、年配の方のほうが人数も多くて、投票にいく割合も高いわけで、たくさん票になるわけですよね。若い人はただでさえ人数が少なくて、投票率も低い。

    坂本:それで、高齢者のほうが保守的なイメージがあるんだけど、あれはなんでかなーって不思議だよね。70代、80代の方って、戦争の悲惨さとかを記憶しているはずなのに、なんで右傾化するんだろう? 「もう戦争はこりごりだ」って思ってた人達のはずなのにね。「やられたら今度は勝つぞ!」みたいに思ってるのかな……、どうなんだろ。僕のまわりにはあまりそういう人がいないので、ぜんぜんわからないんですよね。

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  4. 特定の政党とかじゃなく、政治家みんなに奮起してほしい

    もんじゅ:ところで坂本さんがつくった「坂本龍一から政治家のみなさんへ」っていうメッセージサイトは、いつごろ考えていたものなんですか? 原発問題について、職業や肩書もほんとにいろんな人たちの意見が集まっています。

    坂本:そうそう。このサイトの構想はまえからあったんだけど、きゅうに総選挙がきちゃったんでいそいでつくったの。特定の政党、特定の候補者を応援するわけじゃなくて、立候補する政治家のみなさん全員に対する呼びかけというかたちでね、奮起してほしいな、と考えて。

    もんじゅ:くらしの安全を考えて反対の人もいるし、経済的に考えて、科学的に考えて、倫理的に考えて……と、いろんな側面からみて「原発はやめよう」って思ってる人がいるわけですよね。政治家の方にも、有権者の方にもみてほしいなと思うサイトです。

    坂本:いまは「日本未来の党」ができましたけど、その前までは脱原発を訴えているのはバラバラの小さな政党ばかりで、このままいくとどこも票が取れなくて、大政翼賛体制みたいになりかねないんじゃないか、という危惧があって。まあ、いまもその危険性はありますけど、まがりなりにも「日本未来の党」ができていくつか合流したから、以前よりはマシな状態なんじゃないかと思うな。

    もんじゅ:ほんとに、原発っていうと科学とか技術の話だと思われがちだけど、ただ政策の話だと思うんですよね。政策決定と、それをいかに法律なり実際の施策に落としこんでいくかっていう話だけだと思うんです。

    社会の常識って、いちど変わるとなかなか後退はしない

    もんじゅ:最初の話に戻りますけど、「人を殺しちゃいけない」っていうのは、いまはあたりまえのこと、常識ですよね。だけど、「日本で原子力はムリだよね」っていうのはまだ常識じゃない。だけどそれを、だんだんとあたりまえのことにしていくわけですよね。

    よのなかの常識を動かすのって、ほんのちょっとでもものすごいエネルギーが必要だけど、いちど社会の価値観がプラスのほうに1ミリでも変化したら、それはそうそう後戻りしないように思うんです。

    坂本:そうだよね。後戻りは、しない。それはタバコもそうですよね。投票権もそうです。

    もんじゅ:女性の社会進出なんかもそうですよね。

    坂本:そうそう。たとえば女性が選挙権を持つようになったのも、各国で違いはあるけれど、100年ぐらい前でしょ。人間の歴史の中ではずいぶん最近のことなんですよね。黒人の公民権だって、50年代、60年代のこと。僕はまだ人間というのは幼児期の生き物だと思っているんだけど、まだまだ進化の途中なんだよね。しかし、いちど根本的な変化が起きると、なかなか後戻りはしない。

    タバコでいえば、アメリカでは全米で建物の中で喫煙できないの。みんな道で吸っているんだけど、州や街によっては道もダメってところもある。日本に来ると、分煙は進んでるけど、まだ建物の中でタバコを吸っている人がいて、みると一瞬ギクッとしちゃうんだよね。でもそれも、たかだかここ10年ぐらいの変化で。

    もんじゅ:タバコの吸い方も、10年前に比ると日本もずいぶん変わりましたよね。

    坂本:うん、変わったよね。だから、さっきもいったけど、人間って保守的な生き物だから、変えるのは難しいけどさ、いちど変わったらなかなか後戻りはしない。だから、ここをなんとか踏ん張らないと、と思うんだよね。

    震災から時間が経っても、脱原発を望む人は減っていない

    もんじゅ:いまは震災直後に比べて、原発のこわさを忘れている側面もあるけれど、だんだんと話題にはしやすくなっていると思うんです。選挙でもちゃんと争点だというふうにマスメディアで取り上げられるようになったので、その変化はもうもとに戻さないようにしたいなと思います。

    坂本:そうそう、もう原発について話題にすることはあたりまえ、っていうふうにしていかなきゃダメだよね。

    もんじゅ:そう、原発って、もうみんなの問題だから。

    坂本:この点に関しておもしろいのは、ふつうに考えたら、ああいう事故があって壊れた原発の姿を見て、そのショックで事故直後は「原発はいやだ!」と感情が高まって、それがだんだん薄まっていくのかなと思ってたんだけど、ちがうんだよね。

    わりと気をつけて新聞社のアンケートを見ていたら、去年7、8月に向かって、脱原発の気分が強くなっていったの。7、8月の時点で国民の7割ぐらいが「イヤだな」と考えだして、それからずっと変わらずにいままできてる。

    もんじゅ:事故の直後は、とにかくこわいけれど、そうはいっても原発はなくてはならないもの、それに歯向かうなんてやっちゃいけないこと、という思いこみが生きていたんだと思います。

    坂本:安全神話がまだ効いていたということなのかな。

    意外と知られていない、稼動中の原発はたった2基だということ

    もんじゅ:あと、いま「原発はやっぱり必要だ」といってくる人には、「いまはもう日本で2基しか動いていないんだよ」っていうんですけど、それがぜんぜん知られてなくって。

    坂本:えっ、知られてない!? そんな人いるの?

    もんじゅ:たくさんいますよ。一時期、日本じゅうの原発がぜんぶ止まってたことも、原発ゼロのままでも夏を乗り切れただろうと電力会社自身がいっていたことも、知らない人が多いですよ。

    いま日本で使っている電力のおよそ95%は原発由来じゃないし、もちろん関東エリアは原発の電力を使ってないんですよっていう話をすると「えっ!?」って驚く人はいます。

    坂本:だって、3.11の事故の前でさえ、原発っていうのは電力の約25%しかまかなってなかったわけでしょ。電力にかぎらず全エネルギーでみれば5~6%でしかない。だから、原発問題をエネルギー問題とすり替えるのは、本当に言葉のすりかえだよね。エネルギー問題じゃないんですよ、じつは。

    もんじゅ:そう、エネルギーじゃなくて、シンプルに政策の問題だと思います。

    坂本:だからね、それこそ政治主導で変えられるはずなんだよね。電力会社の原発部門をとっとと国有化すればいい。国有化せずに、いちおう私企業である電力会社に持たせてるから、不良債権になるのがこわくて、使おうとするんだから。

    総括原価方式だから、原発みたいなお金のかかる方法をとってしまう

    もんじゅ:発電設備はもちろんだけど、いま資産として持っている使用済核燃料も、「原発をやめます」と決めたとたんにただのゴミになってしまうわけだから、いっきにバランスシートが悪化しちゃいますもんね。経営が悪化するから、企業としてはなんとしてもその判断を避けようとしてしまう。原発があぶないとかつづかないってわかっててもね。

    坂本:関西電力なんて利益の半分が原発からきてるから、それが一挙に不良資産になると会計的に困るっていうけど、なんだかそこだけ資本主義的な、ちゃんとした会計の考え方なんだよね(苦笑)。

    もともとは国策として国が原発を押しつけておいて、利益の出し方も総括原価方式でいいよっていって、そこに通常の市場原理や競争原理は働いていないわけでさ。ほんとうにいびつだと思うよ。

    もんじゅ:総括原価方式だから、固定費にお金をかければかけるほど利益が上がってしまうというのも、建設費のかさむ原発を増やしたくなってしまう誘因のひとつですよね。ふつうのビジネスなら、売上からコストを差し引いたものが利益だけど、電力の場合はかかった分だけ利用者に請求できてしまうから、経営努力をしなくなる。

    坂本:コストをかけるほど利益があがる、かかった費用はすべて電気代として取っていい、というしくみだよね。そんないびつなものをつくっておいて、普通に資産として運用しなきゃいけないという……。

    原発のない社会にしていくのは、政治にしかできないこと

    もんじゅ:いま日本に原発が50基もあるのは、国が原発を増やしたいと考えて、原発をやればもうかる法や制度をつくったからですよね。じゃあ今度は原発をやめることがプラスにつながるようなしくみをつくって、原発のいらない社会に誘導するっていう、その決めの話なんだろうなと思います。

    坂本:それはもう政治にしかできないことだよね。官僚と電力会社を放っておいても、みんな自分たちでは変えないから。そこを変えていくのは政治にしかできない。

    もんじゅ:自民党はかつてもずっとそうだし、いまも原発推進じゃないですか。でも、もし与党になったところで、原発推進してほしいと積極的に思っている人って多くはないと思うから、どうするんだろうって。

    坂本:自民党の応援母体であるJAが脱原発だから、あれは痛いんじゃないかな。だから、実際は推進できないと僕は思う。ただ、選挙だから経団連の顔を立ててああいってるのかな、と思うんですけど。仮に政権をとったとしても、そうかんたんには推進できないと思います。

    この選挙の公約の時点ですでにグレーにぼやかして、はっきり推進とはいわずに「ベストミックス」とかいわざるをえないほど、社会の空気は原発推進ではないってことだから。それで、北朝鮮だとか領土とか、別のでかい問題をぶつけてきてるんじゃないのかな。

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  5. 新興国が原発の新設を必要としていても、日本はちがう

    もんじゅ:そういえば、坂本さんに薦められて読んだ『エネルギー論争の盲点』、この本は原発は必要だと主張してはいるんですが、おもしろかったです。「エネルギー」というとすぐに電気のことがイメージされてしまうけれど、医療とか流通とか交通、そういったものすべてを支えているものなんだと。その観点は忘れられがちなので、勉強になりました。

    坂本:いまの中国がそうですけど、発展しているので原発が必要だといいますよね。ただ中国は実は原発だけじゃなくて、太陽光も水力もすごい勢いで進めていて、たぶん風力なんかはもう世界一なんじゃないかな。太陽光も50テラとかっていう巨大なソーラーファームをゴビ砂漠につくって北京に送る計画がすでに進んでいるらしんだよね。

    もんじゅ:新興国には原発の需要があるっていうけれど、原発だけ増やしてるわけじゃないんですよね。原発だけじゃ足りないし、ウランは枯渇しちゃうから。

    坂本:そうそう、原発だってつなぎなんだから。ほんとに、人類の文明とエネルギーの問題っていうのは表裏一体だよね。1万年くらい見わたしても、エネルギーを大量に使い出した200年ちょっと前の産業革命までは、エネルギー源というのは薪だったわけだから。あとは自然エネルギーで、船だって風力だし、からだを温めるのは太陽で、亀と一緒(笑)。

    1万年前の農耕革命が起こっても、エネルギーに関してはあまり変わらなかったのが、蒸気機関を使いだして急速に変わったんだよね。平均寿命も伸びて、人口もどんどん増えていった。なにかそこにヒントがあるんじゃないかな。

    もんじゅ:人口についていうと、日本はもう増える気配はないですよね。だから「エネルギー消費が増えるから原発を建てそう」といわれても、そんな必要ないだろうって思います。原発を増やしたい国っていうのは、新興国といわれているインドや中国やベトナム、ブラジルとかですよね。この日本でまだ原発を増やしたいみたいな話が消えていないのは、すごく気持ち悪いです。

    日本の原子力産業は、廃炉ビジネスに活路を見出すべき

    坂本:リスクを考えたら、原発があることは経済にとってもリスクなんだよね。とっととやめて、再生可能エネルギーの投資をしていったほうが当然いい。

    あと、「廃炉」がだいじでしょう。廃炉ビジネスをちゃんと確立して、日本が世界をリードしていけばいいんだよね。原発は世界中に山ほどあるから、すごい大きな産業になるはずだよね。どうせ、原発は30年~40年で廃炉になっていくわけだから。

    もんじゅ:世界の原発新規建設ラッシュが1980年代だったから、これからどうしてもたくさんの廃炉が必要になっていきますね。

    坂本:いまその技術を築いておけば、世界中に需要があるからね。もうね、廃炉にしなきゃいけないものが自分のところにあるわけだから、それを使って技術を確立しないと。

    もんじゅ:廃炉っていうのは、ちゃんとした技術はまだないんですよね。

    坂本:福島に関しては、専門家でも「あれは廃炉にすることすら難しい」っていっている。通常の原発であれば、少なくとも選りわけていけばいいんだけど、福島第一は中に入っていけなくて、見ることもできない。もう、ダダ漏れですよね。でもダダ漏れはよくないから、早く石棺にすればいいのに、って思うんだけど。

    もんじゅ:地下と海にどう漏れているのか考えたら……、おそろしいですよね。

    坂本:大変なことになってるよね。それはどんどん流れていくから、東京湾なんかは再来年が汚染のピークになるっていわれてるけども。

    もんじゅ:地形的にたまっちゃうらしいですね、東京湾は。

    いちど事故を起こすと、被害が大きくて補償もできない

    坂本:アメリカの西海岸にも、来年か再来年ぐらいにたどり着くみたいだけど、補償ってどうなるんだろう? チェルノブイリの事故がヨーロッパにおよぼした影響というのはすごかったでしょう。あれでソ連は補償ってしたのかな?

    もんじゅ:福島でも、事故発生直後は海外への補償はどうなる、という話が出ていたと思うんですけど、そのあとは聞かなくなりました。

    坂本:あまりに被害が大きすぎて、ソ連は補償できなかったのかな。今回の事故でも太平洋のいろんな島が被害を受けるよね。4年後にマグロなんかが成長したころに調査が完了して、「補償してくれ」といわれるんじゃないかって話を去年はしてたんだけど、いまは聞かないね。そういった補償まで含めたら、きっと完全に国家破産だよね。

    もんじゅ:破産すると思います。まず、国内の補償もぜんぜんちゃんとしてないですし。除染事業ばっかりやっていて。

    坂本:あれ、除染バブルだよね。除染でもうけてる。

    もんじゅ:あれに使われるお金の1割でも補償にまわせば、避難している人、避難できなかった人、被害を受けた人たちが生活を再スタートさせられると思うんですけどね。

    坂本:除染バブル、瓦礫バブル、訴訟バブルというのが3大バブル。なんか悲しいよね、そういうのはね。

    もんじゅ:悲しいですね。悲しいですけど、そういう現実があるところに、今回の選挙があるわけですから、これはしっかり投票しにいくしかないですよね。

    坂本:そうそう、僕は在外投票を。

    もんじゅ:ボクは炉なので、投票権はないんですけども……。

    坂本:そっか。もんじゅ君は、原子炉だから。

    もんじゅ:そうなんです。でも、原発をまた動かすってことになると、ほんとにボクとしてもこわいし、いやだし、困っちゃうから、ほんとに人間のみなさんには、しっかり投票お願いいたします、といいたいです。投票権のないこどもたちとか、これから生まれてくるこどもたちのためにも。

    坂本:うん、そうだよね。ほんとうに選挙はだいじ。みんなに参加してほしいなって思いますね。

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