Thursday, November 29, 2012

特殊免疫研究所

人類の進化はアフリカ中部で15万年以前まで続いていました。チンパンジーも勿論その時代に同じ場所に棲息していました。そしておそらくB型肝炎ウイルスの祖先もそのころから存在しいて、人類とチンパンジーに人畜共通感染していた可能性があります。
人類は、アフリカ中部で進化した後、南北の二方向に移動し、アフリカ南端には12万年以前に到着しました。北方へはまずユーラシア大陸に、そしてアジアとヨーロッパの東西二方向に分かれ、アジアからは南にオーストラリアまで、北はベーリング海峡に達しました。そして、ベーリング海峡が陸続きであった2万年以前には新大陸に渡り、北アメリカを経て南アメリカの先端に到達したのは1万年前のことです。これは、勿論有史前の先住民がたどった足跡で、戦略と貿易を目的とした有史後の民族移動は含みません。
人類が農耕を始めたのは、僅かに5千年以前のことで、それまでは狩猟が主な生存手段だったのでしょう。特に火を入手した1万年以前からは、食肉調理の方法が大幅に改良したはずです。
人類は移動した先々で、野生の類人猿を狩猟し摂食する課程で、彼らに感染していた土地固有のB型肝炎ウイルスに感染する機会があったものと思われます。その総合的な結果として、人類の中で7種の遺伝子型を持ったB型肝炎ウイルスが進化しました。

2 comments:

  1. 肝炎ウイルス十話

    B型肝炎ウイルスの起源

    by 特殊免疫研究所 Institute of Immunology

    http://www.tokumen.co.jp/column/kanzo1/10.html

    ReplyDelete
  2. 人類発祥の地アフリカから五大陸へ向かった人類移動の歴史

    B型肝炎ウイルスの起源を知るためには、人類がどのように発祥して旧世界から新世界にいつ渡来したかを知る必要があります。併せて、他動物とりわけ類人猿のB型肝炎ウイルスに関する情報を分析し、その結果からヒトと類人猿(特にチンパンジー)との間で、過去のどの時点で種を越えた「交差感染」によるB型肝炎ウイルスのやりとりがあったのかをも、推定しなければなりません。

    現世の人類は、約15万年以前にアフリカの中部で進化したと考えられています(図6)。そこから南北の二方向に移動して、アフリカ南端には12万年以前に到着しましたが、北方への道は全世界に通じていたのです。ユーラシア大陸に到着してからは、アジアとヨーロッパの東西二方向に分かれ、アジアからは南にオーストラリアまで、北にはベーリング海峡に達しました。そして、ベーリング海峡が陸続きであった2万年以前には新大陸に渡り、北アメリカを経て南アメリカの先端に到達したのは1万年前のことです。これは、勿論有史前の先住民がたどった足跡で、戦略と貿易を目的とした有史後の民族移動は含みません。

    人類が各大陸に移動するずっと以前に、野生動物が同じ経路で各地に拡散しただろうと想像できます。特に類人猿の移動と進化が、B型肝炎ウイルスの人類感染にとって最も重要であろうと考えられます。人類が農耕を始めたのは、僅かに5千年以前のことで、それまでは狩猟が主な生存手段だったのでしょう。特に火を入手した1万年以前からは、食肉調理の方法が大幅に改良したはずです。

    地域に依存したB型肝炎ウイルスの遺伝子型

    ヒトB型肝炎ウイルスは、3,200個の塩基配列が8%(約260個)以上違うことによって、アルファベット大文字のAからGであらわされる7種類の遺伝子型(ゲノタイプ)に分類されています(第六話をご覧下さい)。B型肝炎ウイルスは旧大陸の大型類人猿である野生のチンパンジーとゴリラにも持続感染していて、それぞれチンパンジーB型肝炎ウイルスおよびゴリラB型肝炎ウイルスと名付けられています。東南アジア地方に棲息しているオランウータンもB型肝炎ウイルスに感染していますし、もっと広範囲に分布するテナガザル(ギボン)もギボンB型肝炎ウイルスに感染しています。これら類人猿のB型肝炎ウイルスは、ヒトB型肝炎ウイルスにとてもよく配列が似ています。それどころか7種類あるヒトB型肝炎ウイルス間の塩基配列の違い(8%)ほども違っていない霊長類B型肝炎ウイルスが存在します(図7)。系統発生学的にヒトB型肝炎ウイルスと見分けがつかないので、同一ウイルスと考えるほかなさそうです。

    AからFまでのヒトB型肝炎ウイルス遺伝子型の分布は地域によって違っていて(G型遺伝子の報告はまだ少なく、世界分布がわかっていません)、アフリカでは遺伝子型Eが多いのです。そして、同じくアフリカに有史以前から住んでいるチンパンジーとゴリラのB型肝炎ウイルスと、遺伝子型EのヒトB型肝炎ウイルスとはとても近い関係にあります。同じような現象が、東南アジアと中国に多い(日本にもですが)遺伝子型BとCのヒトB型肝炎ウイルスと土着しているオランウータンとギボンのB型肝炎ウイルスとの間にも見られます。それほど緊密な関係ではないのですが、新大陸に棲息している下等なサル類であるウーリーモンキー(ヨウモウザル)に感染しているウーリーモンキーB型肝炎ウイルスは、同じく中南米にだけ分布している遺伝子型FのヒトB型肝炎ウイルスにかなり近い関係にあります。

    このようにAからFまでのヒトB型肝炎ウイルス遺伝子型は、おそらく同じ場所で人類にさきがけて長期間棲息していたであろう類人猿B型肝炎ウイルスと緊密な関係があります。どの時点とは断言できませんが、人類が発祥した古代のアフリカでも、また人類が各大陸に渡来してからも、狩猟と動物の解体および食肉を通じて先住の類人猿から彼ら固有のB型肝炎ウイルスがまずヒトに感染して、それ以後二次的にヒトの間に広まった可能性があります。

    B型肝炎ウイルス:ヒトと他動物間で「ウイルス・やりとり」の軌跡

    人類の健康を脅かしている多くの病原性ウイルス感染が、他動物からうつった「人畜共通感染」の結果であることが、最近注目されています。典型例はHIV(human immunodeficiency virus)感染で、約30年以前から少なくとも7回にわたってアフリカのチンパンジーから、血液を介して現地の食肉解体業者に感染し、それが瞬く間に全世界に拡散したと考えられています。HIVに対応した猿のウイルス(simian immunodeficiency virus [SIV])が全世界にひろまっていて、調べられただけで30種類もの野生類人猿に感染しています。ウイルスは自然の宿主では殆ど害をしませんが、宿主が変わるとHIV感染のように重い病気を起こすことがあります。B型肝炎ウイルスも、チンパンジーを初めとしたサル類ではヒトのように重い肝臓病は起こしませんので、おそらく彼らが自然宿主であろうと思われます。

    肝炎ウイルスの中でも、E型肝炎ウイルスは広く養豚に蔓延し、野生のイノシシとシカにも感染しています。動物からヒトへ、またはその逆方向の感染経路がありそうです。C型肝炎ウイルスの歴史は浅く、人類に感染してからまだ200年位しかたっていないと考えられています。B型肝炎ウイルスと違って、他動物には対応するC型肝炎ウイルスはまだ発見されていませんが、おそらく過去のある時点で人畜共通感染によって動物から人類にうつったのだろう、と想像できます。二十一世紀に入ってからも既にいくつかの「新興感染症」が発生して、その殆どで「人畜共通感染症」の経路が疑われています。SARS(severe acute respiratory syndrome)ウイルスとトリ・インフルエンザウイルスなど、記憶に新しいところです。

    HIVのサル版であるSIVほどよく調べられていませんが、B型肝炎ウイルスも広く全世界の野生動物、特にサル類に感染している可能性があり今後詳しく調べる必要があります。その研究で得られた結果の系統発生学的解析からB型肝炎ウイルスが人類全般にわたって、いつどこでどのように拡散したかが次第に明らかになることを期待できます。

    ReplyDelete