Tuesday, October 23, 2012

Aono.Y

6 comments:

  1. 科学と財布の限界を超え、初音ミクを“3次元”に

    ASCII.jp編集部

    http://ascii.jp/elem/000/000/651/651624/

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  2. 暗闇の中、1枚の透明なスクリーンに初音ミクが浮かんでいる。ちょっと手を伸ばせば、長い髪にもさわれそうだ。透明スクリーンの中から、“彼女”がこちらに出てきてくれている。妄想でも幻覚でもなく、最新の立体映像技術によって。

    スクリーンに映像を出しているのは23台のプロジェクター。市販のビジネス用プロジェクターだ。特殊な合成処理を施した23枚のCGを、やはり特殊な加工を施したスクリーンに投影すると、映像の部分部分が重なり合い、あたかもそこに本物の“ミクさん”がいるような映像が合成される。

    開発者は浜松市に住むAono.Yさん(25)。「Future Vision Projector」(FVP)と名付けられたこのシステムは、Aonoさん曰く「たぶん世界初」。複数台のプロジェクターを使った立体映像技術は以前からあったが、透明なスクリーンで、しかも理論ではなく実際に立体映像を映せたのは初めてという。

    Aonoさんに頼み込み、実際に見せていただいた“ミクさん”は、想像以上の出来だった。スクリーンの10センチくらい前にふわふわと浮かんでいるようなイメージで、地球をかかえているようなCGでは、本当に丸いボール状のものがそこに浮かんでいるように見える。

    ところがだ。驚くべきことにAonoさんは研究所の職員や、大学の研究者などではない。メーカーに勤めている、ごくごく普通の会社員だ。

    こんな技術が一人で作れるものなのか。開発環境が進化しているのはもちろんだが、そこには並はずれた努力と、大量の時間、そして一個人としてはけっこうな額のお金が使われている。そこまで彼を動かしたものは、“ものづくり”そのものへの純粋なエネルギーだった。

    ホログラフィーじゃないんだよ

    ―― 今回のアイデアを思いついたのはいつごろですか?

    Aono 構想は大学院時代からあったんです。専攻自体は電気/電子だったんですが、研究室で偶然ホログラフィーに携わることができて。その当時、2010年の「ミクの日感謝祭」が話題になってたんですよ。

    ―― ありましたね、3Dの初音ミクが出てくる。

    Aono ライブとしてはすごく楽しかったんですが、Web上で「これはホログラムだ!」という書き込みを見かけたんです。それに釈然としない思いを抱いて、どうにかこれを“本物の立体映像”にできないかと。

    ―― あれは本物の立体映像……じゃないんですね。ぼくも漠然と立体っぽいなと思ってしまった1人です。

    Aono そうなんです。透明なスクリーンに映し出すのが新しかったのと、コンテンツ(CG)の作り込みがすごく良かったというところで“立体っぽく見える”んですが。カメラ越しだと特に立体映像に見えますが、1台ないし2台のプロジェクターで投影しているだけで普通の映像なんです。透明じゃないスクリーンもあったと思うんですが(ミクパ 東京公演/2011年)、イメージ的にはリアプロジェクションテレビと似たような仕組みです。

    ―― ホログラフィーというのはどういうものなんですか?

    Aono 要は3次元の写真といったイメージと思っていただければいいです。

    ―― 3次元の写真?

    Aono 写真というのはレンズを通して見た映像を2次元の平面に記録する媒体なんですが、ホログラフィーは同じような感覚で、3次元的な情報を記録するものなんです。ホログラムのフィルムに、干渉縞という縞を記録する。ものすごくいろんな情報を持った干渉縞がフィルム上に記録されると、人間がそこにいるときと同じだけの情報量になると。

    ―― なるほど、それを考えると確かに全然ちがいますね……。

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  3. ずっと前から“ものづくり”が好き

    ―― 大学院でホログラフィーを学ぶまでもバリバリの理系だったんですか?

    Aono 高専出身なんですが、そのころからモノを作るのが好きだったんです。LEDを光らせて遊んだり、電光掲示板を作ってみたり。その頃は「こんなのできるかな」「できた!楽しい!」という自己満足で終わってたんですが。

    ―― そこから理系として大学院に行って、立体映像に出会ったと。

    Aono あのころは研究が楽しくて楽しくて仕方なかったです。教授に言われたことなんかは全然やらなかったんですけど、ホログラムの中で自分がやってみたいことをやっていくのが楽しくて。

    ―― やってみたいこと?

    Aono 研究室で作った装置で初音ミクを映してみたりとか。

    ―― ホログラフィの“ミクさん”がいたわけですか。

    Aono いましたねー。立体写真の技術でねんどろいどのミクさんを立体化してみたり。

    ―― 今でも立体映像業界は追いかけつづけてるんですか?

    Aono はい。最近すごいなと思ったのは去年のCEATECで、ぼくが勝手ながらライバルだと思っているNICTさん(独立行政法人 情報通信研究機構)が展示していた電子ホログラフィーです。

    ―― ライバル!

    Aono NICTさんは今年のCEATECでも展示された、数十台のプロジェクターを使用した200インチの立体映像表示システムを手がけていて、そこが心のライバルたるゆえんです。それと僕の中での投影方式の立体映像といえば、東京農工大の高木先生という方がいらっしゃいまして、その方も一昔前、投影方式で多視点の立体映像というのをやってらっしゃったんです。ぼくも大学時代はかなりそれを参考にさせていただいてます。

    ―― ものづくり以外に、映像の編集もされてますよね。

    Aono とにかく“何かを作る”のが好きだったんです、映像にしてもモノにしても。最近は“何かをつくる”が、ビジュアル的なものや、目に見えるなにかに収束しているイメージがありますね。僕の中では、色々な何かをつくることを通して、何かを“伝える”ことをしようとしてるんだと思います。

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  4. お金のかかる女に泣かされた

    ―― 実際にシステムを作りはじめたのはいつごろですか?

    Aono モノを買いはじめたのが今年の頭くらいです。その間に、スクリーンの素材を選んだり、理論にもとづいたプロジェクター群の配置といった設計を、6月頭くらいまでに詰めていって。ようやくできそうだというところまできたのが7月の中頃でした。

    ―― 半年がかりのプロジェクトですね。この大量のプロジェクターは?

    Aono ヤフオクでプロジェクターを探してたら、1台1万円くらいで落札できることが分かって、これイケちゃうぞと。そこから「1万2000円超えたら入札しない」ってルールを作ったりしながら、半年がかりで揃えました。

    ―― それにしても、パソコンとプロジェクターを合わせたら大した額ですよ。

    Aono ちょうど今の会社に入って、最初にボーナスをもらったころくらいだったんです。なまじ就職すると、お金があるじゃないですか。

    ―― 初ボーナスは初音ミクのために使われたわけですね。システムはそれで作れたとして、場所はどうしました?

    Aono いま入っている寮の1Fに食堂があって、そこが空間的な広さがあること、電子レンジがいくつもある関係、強靭なブレーカーがありまして、「ここしかねえええ!」と。

    ―― 社員寮に初音ミクが!

    Aono 食堂が使われていない土日にゲリラ的に資材を搬入して。日付が変わるくらいからセッティングを始めて、予定では3時間くらいで終わるはずだったんですが……。

    ―― が?

    Aono 実際に映ったのは朝7時でした。

    ―― 7時間!!

    Aono 同僚のみんなも初めは付き合ってくれていたんですが、その時間までつきあってくれる人はさすがにいなくて。初めての喜びは1人で噛みしめましたね。

    ―― 初めて映像が出たとき、どうでした?

    Aono 泣きました。ドヤ顔で「これは表示できるぞ」という自信はあったんですが、本当に映ってくれたときは、涙が出ましたね。

    ―― 同僚のみなさんも計画のことは知ってたんですか。

    Aono これの全貌を知っている人間はぼくしかいなかったんですが、会社の同僚でもギークな自作好きが多くて、手伝ってくれていたりもしました。浜松は田舎なので、そういうところ(自作)でしかモチベーションを発散できないみたいなところもあるんですよ。

    ―― えーっ。そんなに田舎なものなんですか?

    Aono 寮自体も山の中にあって、コンビニが歩いて10分のところにあって、それで終わりみたいな。窓の外を見れば林だし、モノを作るとか、己と向き合うところしかない。クリエイティブ精神をはぐくむには素晴らしい環境なのかもしれないです。

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  5. 消費電力は6000W、“ヤシマ作戦”状態に

    ―― いちばん難しいところはどこでした?

    Aono 大変な順番に言うと、まず場所を見つけることです。次が荷物を搬入すること。搬入から映像を映すまで、トラブルがなければ10時間くらいでいけます。その次に大変なのが、プロジェクターをちゃんと認識させることですね。

    ―― 配線が既にとんでもないことになってますもんね。

    Aono ATXのマザーボードにグラボ(グラフィックボード)4枚差しで13画面を出しているんですが、それがなかなかうまく認識してくれないことがあるんです。今朝も1台認識してくれなくて。

    ―― それだけやっていると消費電力もすごそうです。

    Aono 大体6000Wくらいですね。

    ―― 6000W! それはバッテリーで?

    Aono いや、すべてコンセントから供給してます。

    ―― なんだかヤシマ作戦※みたいですね。

    Aono たしかに。この状態もヤシマ作戦を彷彿とさせるような感じです、1系統15アンペアしかないので、それを5系統のコンセントから引っ張ってますから。

    ―― 透明スクリーンの素材はアクリルですか?

    Aono このくらいのサイズのもので、透明で、手軽に手に入りそうなもの、と考えたらアクリル板しかないんです。縦方向に光を拡散させるため、表面にこまかい横方向の線の線を入れる必要もあって。ガラスとかだと加工も難しいでしょうし。

    ―― レコードみたいに細い溝が彫ってあるイメージですかね。

    Aono 今の表面処理の方法に行きつくまでも大変で……スクリーンを透明にしたまま、光を縦に拡散させるのが難しくて。

    ―― 最初はこうじゃなかったんですか?

    Aono 「レンチキュラーレンズ」という、お菓子のオマケにある立体シールなんかで使われているものを使ってみようかなと思ったところもあったんです。が、「いや、やっぱ透明じゃないとダメだ」と思い直して。

    ―― 本物の立体映像を見せて、ギャフンと言わせてやりたいと。

    Aono それもあるんですが、透明じゃないなら、心のライバル・NICTさんの方式でいいじゃんというところもありまして。後はひたすら表面処理との戦いでした。あの面積をひたすら自分で加工したので……。

    ―― 人力!

    Aono しっくり来る大型の機械もなかったので、ひたすら自力で加工してました。

    ―― ものすごく手動ですね。

    Aono 手動です、完全に。丸一日かかりますよ。やってることはホントにローテクなんです。頭の中ではすごいハイテクなことをやってるんですけど。

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  6. 初音ミクは“つくる人”のブランドマーク

    ―― それだけ苦労されたわけですし、ライブで使ってほしいですね。

    Aono ご興味持ってくださってる方はチラホラいらっしゃるんですよ。バーチャルライブ用途で実際にやってみたいと言ってくださって。現状はまだ参考くらいの話ですが。

    ―― 真っ正面から見るとまぶしいですが、これは解決できます?

    Aono うまく真っ正面からの光が見えないようにすることはできると思います。ステージ上にこのスクリーンが立っていたとして、フロアが一段下がったところにあるZepp Tokyoのような場所であれば、プロジェクターはやや上向きに設置することになるので。

    ―― ボカロPのライブなど、Zepp Tokyoほどのキャパがない場所ではどうなんでしょう?

    Aono そうですね……狭いハコ、視野角が必要とされないハコなら、(プロジェクターが)今の2倍くらいあれば大丈夫かなと思います。

    ―― このシステム、これからどう進化させていきたいですか?

    Aono まずはプロジェクターの台数を増やしたいです。資金難なので大変なんですが……。あと、スクリーンを違うものにしてみようというのがあります。透明なものであることに変わりはないんですが、光がよりはっきり見えてくるというか、ムダな光が省かれるものにしたいと。

    ―― これ、特許は申請されてます?

    Aono まだ何もやってないんです。特許って面倒くさくって……個人でやるとお金もかかりますし。初めはニコ動で作り方もすべてぶちまけてしまおうかと思ったんですが、それをやるとぼくがいる意味がなくなっちゃうので、今はまだバランスをとってます。ただ、どっちかというとお金がほしいというより、面白いことになってくれたらいいなと思っているので。

    ―― お金をつくるよりモノをつくる方が楽しいって感じですね。ところで最後に伺いたいんですが、どうしてそこまで“ミクさん”が好きなんですか?

    Aono なんですかね……ぼくの場合は高校生の頃から自分でモノを作るのが好きだったし、インターネットって場が好きなんです。ニコニコ動画も1つのクリエイターをつなぐ場になったと思うんですけど、初音ミクはその中で、クリエイター、作家や作曲家や映像作家などが持っている共通の意識みたいなところがあったかと思っていて。

    ―― “ものを作る人の旗印”みたいな。

    Aono はい、そういう存在として初音ミクがすごい好きで。それってたぶん、初音ミクじゃないとダメなんですよね。それが彼女というキャラクターが愛されるようになったきっかけになったという感じがします。

    ―― キャラクターであることを超えて、ブランドマークというか、アイコンになっているわけですね。

    Aono そうだと思います。まあ、純粋に天使だってこともあるんですが(笑)。

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