Thursday, May 3, 2012

辻井喬

今度の大震災は非常に困難なタイミングに起きましたね。米国をリーダーとするグローバル経済の先が見えて産業構造が変わらなければならない時期に、経済大国である日本が大きなダメージを受けた。原発問題を含めればもっと事態は深刻。驚いた米国は最も有力な従属国に救いの手を差し伸べざるを得ないわけです。
言えることは、今までの日本の復活はないということです。
小さくて弱いものを抑えつける開発独裁型の政策は一応成功したが、今度の復興には通用しない。もう時代が変わったのです。中央と地域の関係も変化し、さまざまな格差や貧困も広がっている。被災地をどのように自主的な社会と経済にし、国がどう協力するのか。そこでは従来のパラダイム(社会的価値観)を転換する必要があるのです。
「頑張ろう日本、日本は強い国」というコマーシャルがあるでしょ。あれは今の実態を敗戦後の復興と同じようにとらえていて、どうするかという思想がない。どうも政府の考え方が昔のままのようでたいへん不安です。

1 comment:

  1. 科学は大事です。でも、科学的であれば合理的、すなわち人間の幸せにつながるというパラダイスは変わってこざるを得ない。そもそも原子力エネルギーを石油文明のシステムにあてはめること自体、無理がある。さまざまな国際関係、駆け引きのなかで、今度の復興の方向は世界にも大きな影響を与えますね。

    社会意識の近代化が必要とされた時代までは、ある程度、意味があったと思う。『私のような者がおいしいものを食べ、こんな洋服を着ていいのだろうか』といった自己規制を一遍取り払わなければいけなかった。私もその流れに乗ってきたが、90年代から疑問を感じるようになった。

    従来の日本とは違うものをつくりあげなければならないでしょう。権力に従順で忍耐強く、努力家で、コミュニティーを大切にする。だから日本には変革が起きないのでダメだと、今まで私は認識していました。でも、そうした伝統的美徳は弱さや欠陥ばかりでなく、反転し得る強さだったと震災で気付かされ反省しました。さらに、今や公共のためにどれだけ役に立つかという美徳も求められている。それはもう立派に被災地の方々が示していますよね。

    (3.11後)やっぱり『死』について考え直さなければいけないと思って、長い詩集を書き始めました。今までの詩は技巧やモダニズムの表現などに重点が置かれてきたけれど、震災をきっかけに人間が生きるうえでの切実さを持って、どういう作品を書けるかでしょう。

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