(安岡章太郎のエッセイ。ふいに時計を眺めると中央線の最終電車まであと僅か。外からは電車の音が響いてくる。) 反射的に私は立って、別れの挨拶を述べた。 すると井伏さんが一瞬、不意に引き締まり、きわめて素っ気ない口調で、「あ、そう。君は家へ帰りますか。じゃ、僕はここで失敬」と、酒を満たしたガラスのコップに目を落としたまま言われた。
室井「あっ、ホントに! そっかぁ~」
と、手を出されて握手。
「頑張って下さい。」
室井「あら、一緒に写真撮らない?」
「あっ、いや、いいです。」
室井「・・・あらそうですか。」
この時の室井滋が私に送った「寂しそう+なんだヨ!」とでも言いたそうな目線と「・・・あらそうですか。」という言葉。そして、井伏の「あ、そう。」
どう、似てない?
室井滋と井伏鱒二。
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安岡章太郎のエッセイにこんな事が書かれている。 掻い摘んで記すと・・・、
井伏鱒二の家を訪ねる人間は大抵、数刻の雑談の後、阿佐ヶ谷や荻窪近辺の井伏氏「縄張りの店」へ連れて行かれたのだそうである。 それも散歩にでも行くような、実に自然にね。 読んでいても実に羨ましい限りの話だ。 井伏といったら文壇界切っての大酒呑み。 趣味雑誌「酒」での酒番付にも「酒殿堂」の一員として入っているのだから余程である。 椅子に腰を下ろしたら最後、明け方まで据えっ放しというのはざらだったとか。 で、安岡も井伏邸を訪ねた際、同じく飲み屋へと繰り出しのだった。 まあ色々な話で盛り上がってね(その内容はこれから読む読者のお楽しみとして譲る)、安岡、ふいに時計を眺めると中央線の最終電車まであと僅か。 外からは電車の音が響いてくる。 以下は抜粋。
『 反射的に私は立って、別れの挨拶を述べた。 すると井伏さんが一瞬、不意に引き締まり、きわめて素っ気ない口調で、「あ、そう。君は家へ帰りますか。じゃ、僕はここで失敬」と、酒を満たしたガラスのコップに目を落としたまま言われた。 』
分かった? で、急に話変わって私の話。
去年の暮れ、高校時代からの朋友に誘われ、女優・室井滋のサイン会へと足を運んだ。 場所は秋葉原。 氏の最新著書「すっぴん魂6 ロケ隊はヒィ~」(文藝春秋)の出版記念として開かれたサイン会でね。 ちょうどその日が土曜日とあって会場は超満員。 整理券を持った客が長蛇の列を成し、今か今かとその順番を待っていた。 私もその最後尾に並び、手持ちの文庫を読み時間を潰した。
場所柄もあってか室井滋自身「メイド」の格好。 この辺からも氏のユーモア性を垣間見えるが、サインは一人一人に話しかけながら丁寧に書いていたのが印象に残っている。 周りの付き人(全て女性)も同じくメイドの格好してね。 写真も撮ったりしていた。 で、とうとう私の番。 店員に前もって整理券と本を渡し、いざ本人の前へ。
室井「こんにちわぁ~。」
「こんちわ。どうも。」
室井「お名前は?」
「●●●●です。(本名)」
室井「●●さん、この辺はよくいらっしゃるの?」
「前の職場が近かったので、よく。」
室井「(私の名前とサインを書きながら)そ~なんだぁ~。(中略)じゃあ、この辺に立ち食いのお寿司屋さんとかあるの知らない?」
「小さい所なら、靖国通り沿いに。」(この発言は自分的に後悔。教えた所は4坪ぐらいの狭いチェーン店の寿司屋だった。決して旨いとは言えない)
室井「(私の目を見て)あっ、ホントに! そっかぁ~」
と、手を出されて握手。
「頑張って下さい。」
室井「あら、一緒に写真撮らない?」
「あっ、いや、いいです。」
室井「・・・あらそうですか。」
ココです、ココ! 私が言いたいのは! この時の室井滋が私に送った「寂しそう+なんだヨ!」とでも言いたそうな目線と「・・・あらそうですか。」という言葉。 そして、前記した井伏の「あ、そう。」からの件。 どう、似てない? 私の中で「あの日の室井滋」と、「文面の井伏鱒二」がどうしてもドッキングして離れないのだ。 読んだ時の印象がかなり強かったんだな、井伏の小父御。 そして、あの「やっぱり猫が好き」で次女・恩田レイ子が、私に見せたあの視線。 ・・・忘れられない。
日々是雑記。
ReplyDelete「後向きに前へ進む」、温故知新人間の“おっ!”と思った雑記帖。 これから進む道は『過去』にあり!
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ペンと紙があれば何処へでも。多方面にアンテナを張り、「ピンッ!」と来た物を集めてみれば、それは昭和の塊。温故知新・ 笑い(諧謔)・耽美・明朗を軸に、興味菌絶賛培養中。