鼠は何のために生まれて来たのか。ただ猫に食われるだけなのか。猫に食われるためだけに生まれてきた鼠って何だ。ただ、窮鼠猫を噛むっていうじゃないか。もしかして、猫に鼠が一かじり立ち向かった記憶が次の鼠に伝えられているかも知れない。自分は日本の歴史の中で、きっとそういう歴史があったんだろうと思う。それを漫画の中で取り上げてみたい。
若い人から、社会主義の国はきらいだときいた。日本ならば、たとえ失敗しても、いっちょうやってやろうという夢があるとのことである。その夢とは、どんなものだろう?まずしい社会においては、夢もまずしくなることが恐ろしい。まずしい社会においては、小さな夢のために大きなことをしなければならない。我々の祖先も、そして現代のわれわれも、そのまずしい社会に生きている。そして、この物語の主人公たち-カムイ、正助、竜之進らも、結局、小さなことのために大きなことをして、消えていったのである。しかし、人びとのあとには、人々がつづき、そしていま、われわれがあるののである。
とかく人は、隠されたものを見たがるものだ。ところが、ふし穴ではないが、見えているが見えないものもある。草を食べる動物がある。その動物を捕える肉食動物がいる。野うさぎを食べつくしてしまえば、天敵である山猫も滅びてしまう。動物でも植物でも、死ねばさまざまの菌類が分解し、無機物へと還元してしまう。その無機物をもとにして、植物は再生する。もし、この世に菌類というものがなければ、地球は動植物の死骸に埋もれて廃墟と化していることだろう。ところが、菌類はキノコやカビをのぞけば、人の眼にふれることはない。木が倒れ家の屋根をとばされて風の存在を知り、水にもぐって空気のありがたさを知る。だが、人はまわりをうかがう己の姿には、なかなか気づかない。作中の登場人物たちも私も、見えないものを見ようとして、己らの姿を見ることが出来なかった。0 はいまだに健在である。
生と死についてわたしが思うこと
ReplyDeleteby 姜尚中
科学の子と自然の子
われわれは、何でこれほど原子力に無防備だったのか。そう考えてみると、「鉄腕アトム」はやはり外せない大きな要素だと思います。
テレビの時代がやってきて6,7年もしない頃、アニメの鉄腕アトムが始まって、みんなが、谷川俊太郎さん作詞のあの歌を歌っていました。
手塚治虫さんの意図は違ったかもしれないけれど、あの作品で科学オプティミズムみたいなものが小さい心に植え付けられた。自分たちは「科学の子」だという意識を広めるうえで、絶大な意味があったことは間違いないでしょう。
その頃、私がもう1つとても好きだった漫画に『忍者武芸帳・影丸伝』など白土三平さんの作品がありました。小学6年の時、その漫画の巻末のあとがきを読んで感動したんです。だいたい次のような内容でした。
「鼠は何のために生まれて来たのか。ただ猫に食われるだけなのか。猫に食われるためだけに生まれてきた鼠って何だ。ただ、窮鼠猫を噛むっていうじゃないか。もしかして、猫に鼠が一かじり立ち向かった記憶が次の鼠に伝えられているかも知れない。自分は日本の歴史の中で、きっとそういう歴史があったんだろうと思う。それを漫画の中で取り上げてみたい」
所詮、人間は自然の一部だ。ババ(糞尿)もするしゲロも吐く。そういう人間が自然の中でただ格闘するだけでなくて、やはり自然に生かされている――白土作品のそんな考え方がスッと入ってきたんです。なぜなら、母が、人間は所詮口から入れて尻から出す、どんなおエライさんも同じだって、良く言ってましたから。
マンガ『カムイ伝』白土三平1~7巻
ReplyDeleteふるちんの「頭の中は魑魅魍魎」
http://blog.goo.ne.jp/full-chin/e/4b684d1885cfc403bad7b74112894f82
1巻の最後、カムイが強くなりてえと叫ぶ。私の中で冬眠していた男の子魂が目を覚ました。覚醒した。本当に凄い凄すぎる作品だ。
ゴールデンコミックス版(1964年発行)のあとがきで白土三平はこう書いている。
カムイのように、差別され、社会の最底辺におさえつけられた人間がそこからぬけだそうとするには、当時にあっては個人的な飛躍しかなかったろう。現代のみなさんなら、おそらく仲間と手をくんで、共に自分たちの境遇をかえようとするだろう。
先日、私は若い人から「社会主義の国はきらいだ」という言葉をきいた。第一の理由は、衣・食・住が保障されることだそうである。日本ならば、たとえ失敗しても、いっちょうやってやろうという夢があるとのことである。社会主義のもとでは、どれもこれも平等にされ、与えられた仕事をするだけの無気力な社会だと思っているらしい。
その夢とは、どんなものだろう?まずしい社会においては、夢もまずしくなることが恐ろしい。まずしい社会においては、小さな夢のために大きなことをしなければならない。我々の祖先も、そして現代のわれわれも、そのまずしい社会に生きている。そして、この物語の主人公たち - カムイ、正助、竜之進らも、結局、小さなことのために大きなことをして、消えていったのである。しかし、人びとのあとには、人々がつづき、そしていま、われわれがあるののである。
次巻「暗流の巻」をごきたいねがいたい (白土三平)以上後書より引用
ただでさえ興奮しているのにこんな文章を読んだら次を読みたくて仕方なくなる。カムイ伝の読み方は色々あるだろうが、幕府・領主・目付け・侍・農民・下人・非人の人間の間の区別差別がもたらす対立軸とVS自然という対立軸がある。支配される側と支配する側の対立と言い換えてもよい。下の者たちのあまりにも過酷な暮らしとそこから抜け出そうと石に噛り付く者たち、そして安定にあぐらをかく者たち。江戸時代を厳しく描いた歴史モノである。
作品が発表された60年代とマルクス主義と世界を吹き荒れる左翼革命勢力が結びついて、「カムイ伝」=「日本でマルクス主義を描写した作品」であるとしてかなり熱狂的に迎えられたそうである。搾取する資本家VS搾取される労働者の対立だけがマルクスが言いたいことではないはずだが、しかしリアルタイムで生きていないにもかかわらず、結びつけるのも当然なんだろうなと思わせるものがある。
バブル崩壊の後、持ち直してきたかと思ったらリーマンショックとドバイショックと急激な円高株安に襲われている。日本はまるでバンジージャンプに飛んでそのまま戻って来ない人のようだ。
派遣切り、就職は氷河期を通り越して絶対零度。そんな今、すごく時代にフィットするのがこのマンガだと思う。蟹工船のヒットで「なんであんなのが?」と思った人も少なくないようだが、これはうーむとうなる人が多いだろう。特に今自分の置かれている環境に不満があればあるほど。
それを打破するヒントがその中にある!などという自己啓発系の人たちのようなことは言わないけれど、楽しめるというだけじゃない何かが飛び出してくることは間違いないと思う。
まだ読んでいる途中だが、(その場合レビューは全て読了してから書くのが筋だが)思わず語りたくなってしまった。
白土三平の『ワタリ』あとがきについて
ReplyDeleteトラッシュボックス
http://blog.goo.ne.jp/GB3616125/e/b2a18f355980100e6257d36277dff501
だいぶ前に読んだ白土三平の忍者マンガ『ワタリ』(小学館文庫、全7巻、1983-84)を手放すことにした。
読み返していると、1巻の最後に次のような「あとがき」があるのが目に留まった。
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とかく人は、隠されたものを見たがるものだ。他人の私生活だとか、男なら女性の秘められた部分に、異常な関心を示す。
ところが、ふし穴ではないが、見えているが見えないものもある。草を食べる動物がある。その動物を捕える肉食動物がいる。野うさぎを食べつくしてしまえば、天敵である山猫も滅びてしまう。動物でも植物でも、死ねばさまざまの菌類が分解し、無機物へと還元してしまう。その無機物をもとにして、植物は再生する。もし、この世に菌類というものがなければ、地球は動植物の死骸に埋もれて廃墟と化していることだろう。ところが、菌類はキノコやカビをのぞけば、人の眼にふれることはない。木が倒れ家の屋根をとばされて風の存在を知り、水にもぐって空気のありがたさを知る。
だが、人はまわりをうかがう己の姿には、なかなか気づかない。
この作品をかいて久しい。その時、作中の登場人物たちも私も、見えないものを見ようとして、己らの姿を見ることが出来なかった。0はいまだに健在である。
一九八三年七月
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最後の「0」とは、「ワタリ」に登場する究極の敵「0(ゼロ)の忍者」のことだろう。
私には、最初に読んだときも、そして今も、この「あとがき」の意味がわからない。
人はまわりをうかがう己の姿には、なかなか気づかない。
作中の登場人物たちも私も、見えないものを見ようとして、己らの姿を見ることが出来なかった。
このことと、
0はいまだに健在である。
がどう関連するのかがわからない。
ここに言う「己(ら)の姿」とは何なのだろうか。
「健在である」0が、「己(ら)の姿」だと言うのだろうか。
だとすればその0とは、操られる0なのか、それとも真の支配者たる0なのか?
どうにもわからない。
この「あとがき」はこう解釈すべきなのだというご意見をお持ちの方がおられたら、ご教示いただければ幸いです。
カムイ伝
ReplyDeleteMADCONNECTION
Published by Susumu Igarashi @ SpaceShop Inc.
http://madconnection.uohp.com/mt/archives/2006_12.html