Monday, March 21, 2011

藤野眞功

「ちゃんと電車で帰ったよ。逃げる奴は追われるというからな」
「凄いですね」
「いったい、今の話のなにが凄いんだ? ええ! 教えてくれ」
「だって、そんな状況から逃げ切るなんて」
「いいか。凄いのは、金を持って逃げた奴らだけだ。おれを嵌めた二人の覆面と運転手だけだ。おれのことじゃない。おれが言いたいのは、言葉には意味がないってことだ。いいか。逃げるとき以外、あの時のおれは常に冷静だった。だが、事にあたっては冷静であることに何の意味もない。それが、おれの言いたいことだ。言葉を信じるな。それがもっとも肝心なことだ。奴らはおれを嵌め、オヤジはおれとの約束を破った。それが、おれの得た経験だ。言葉は無意味だ」
「でも、今の話はおれにはすごく為になりました」
 健一は言った。
「だから言葉には意味がない」
 藤井は笑った。
「いまのは作り話だ」
「なんのために、そんな嘘を」
「ここでは、すべてが無意味だからさ。言葉も行動も、おれもお前さんも」
 健一には、すべてが作り話とは思えなかった。

4 comments:

  1. その人が持っている行動原理と、実際にその人がとる行動にはズレがある。

    言葉はタテマエとしては真意を反映していることになっているし、本音ではそうでもないという面もある。タテマエも本音も間違っているというと、ウソになるでしょう。真実はその間にある。メディアにいる人間なら、誰もが考える問題だと思います。

    今、父親の軽んじられ方って、すごいじゃないですか。社会全体で男性原理がないがしろにされているように思うのです。幼なじみが常に味方であったり、恋愛によって男のアイデンティティーが救済されるという小説が多いのは、その単純な表れだと思います。父性の復権を主張する気はないのですが、現代の社会に必要なのは、男性原理が持つ自己規制やロジックだと考えています。

    単純なマスコミ批判をするつもりは全くありません。週刊誌メディアは大好きで、むしろ、中立を装うことに偽りを感じます。大切なのは色分けではなくて、複雑な現実を単純化してわかったと思わないことではないでしょうか。

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  2. 藤野眞功『犠牲にあらず』

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  3. 福田和也 「真実が虚偽になり、虚偽が真実へと無限に反転していく情報や評価のあり方を示すことで。。。」

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  4. 真実and 虚偽
    truth in logic and
    emotion from heart.
    they both are truthful yet,
    logic doesn't change easily while
    emotion varies from time to time.

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