Friday, July 13, 2012

唐津一

故山本七平氏の著書で「空気の研究」というのがあった。誰が考えても無謀な太平洋戦争に日本が突入していったときの日本社会の空気について書いたもので、皆がおかしいと思いながらも戦争に入っていったときの世の中の空気について書いてある。これを読むと私のような戦中派は、まったくその通りとうなずくばかりで、日本人は簡単に世間の空気に乗せられるお人好しばかりがそろっているという気がする。ところが日本でバブルがはじけて以来の社会の動きを見ていると、日本はまたもや世間の空気に乗せられて、とんでもない途を歩いていることがわかるのである。
バブルの頃は、財テクをやらないものは人にあらずといった空気があった。それが世の指導的な地位にある人々からマスコミまでが煽りに煽った。ニューヨークのロックフェラーセンターを買い取るといったことも、まさにその空気に乗ってしまえば何も恐ろしいことではなかったのだ。
ところが今は全く逆である。不況だとなると、何もかもダメという空気になってしまっている。

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  1. 日本中の「空気」を変えよう

    by 唐津一

    産経新聞

    「空気に乗ってしまえば」

     故山本七平氏の著書で「空気の研究」というのがあった。誰が考えても無謀な太平洋戦争に日本が突入していったときの日本社会の空気について書いたもので、皆がおかしいと思いながらも戦争に入っていったときの世の中の空気について書いてある。これを読むと私のような戦中派は、まったくその通りとうなずくばかりで、日本人は簡単に世間の空気に乗せられるお人好しばかりがそろっているという気がする。ところが日本でバブルがはじけて以来の社会の動きを見ていると、日本はまたもや世間の空気に乗せられて、とんでもない途を歩いていることがわかるのである。

     バブルの頃は、財テクをやらないものは人にあらずといった空気があった。それが世の指導的な地位にある人々からマスコミまでが煽りに煽った。ニューヨークのロックフェラーセンターを買い取るといったことも、まさにその空気に乗ってしまえば何も恐ろしいことではなかったのだ。当時アメリカでは、ロックフェラーセンターのビルから、その中に掲げる高価な絵画も何もかも十把一絡げにして日本が買っていく漫画が、雑誌の表紙に出ていた。ところが日本人はこれを何とも思わなかったのだ。空気というものの恐ろしさがわかるはずだ。

     ところが今は全く逆である。不況だとなると、何もかもダメという空気になってしまっている。特に昨年はひどかった。それでは昨年日本国内では何も売れなかったかというと決してそうではない。家電業界ではミニディスクが大ヒットして、三百万台近く売れた。デジタルスチルカメラは百五十万台だ。もっと傑作だったのが、見えるラジオである。FM東京ではFM波にデジタル信号を乗せて、ラジオにポケベルのような窓をつけ、ニュースや天気予報を出すようにした。これは当初さっぱりだったが、ある局員のアイデアでタレントが今日どこに行くかというスケジュールを出した。すると二百万台売れたのだ。

    「奮戦続ける家電業界」

     あの不況風の吹きまくった最中に、家電業界は奮戦を続けていたのだ。ところがこれらの話が、マスコミにはさっぱり出てこなかった。世間の空気にあわないものはニュースではならしい。それに昨年暮れの秋葉原がすごかった。押すな押すなの人手である。売れたものは、洗濯機、冷蔵庫、掃除機と、成熟商品の一言で扱われた商品が、現実に売れたのである。また、一家に二台以上普及しているテレビが画面を平面にしたら二割高くても売れた。このゆな家電業界の努力には涙ぐましいほどの逸話があるが、世間の空気にあわないと見えてマスコミにはまったく出てこない。

     それに自動車業界では新規格の軽四輪が売れた。そのおかげでスズキ自動車は生産台数で第三位に入った。もちろん正月なしで大増産である。ところが不思議なことに、経済欄では相も変わらず、金融業界の数字とその後始末の話ばかりである。

     そこで、金融業界の日本経済の中でのシェアを言っておこう。経済統計をみるがよい。日本の経済全体はGDP五百兆円、その中で金融は二十五兆円、わずか5パーセントである。これに対して製造業は百二十五兆円で25パーセントである。このたった5パーセントのために日本中が引っかき回されていたわけだ。さらに言うと、個人消費は三百兆円で60パーセントに相当する。

     いま政府は不況対策ということで、なけなしの金を増やしたが、それでも七十兆円レベルで個人消費にはもちろん製造業にも規模の点で歯がたたない。だからこの不況脱出には、製造業と個人消費ががんばってもらわなくてはならないのだが、その話が世間の空気の中にまるで出てこないのだから、日本の識者はいったい何を考えているのかと言いたくなるのだ。

     日本の個人には金がある。個人の貯蓄は一世体当たり中位数(中央の人)で八百万円である。これはものすごい金である。これが出てくればこの不況など一挙にすっ飛んでしまうことがはっきりしている。

    「個人消費活性化への提言」

     ところがこの個人消費を活性化するための提言がまるで出てこないのだから、いったいどうなっているのと聞きたくなるのだ。しかしその中で健闘している企業はもちろんある。先に述べた家電メーカーはもちろんだし、軽四輪メーカーもそうだ。これに流通業界にもすごいところがある。イトーヨーカ堂だ。この欄でも紹介した北海道での5パーセント引きだ。それで1.6倍売れたという。やはり大衆は金を持っていたのだ。だからこれらをきっかけに日本中の空気を変えていけば景気は必ずよくなる。

     ところが驚いたことに、この5パーセントが不当表示に当たるのではないか、というので公取が調査をするというのだ。今のような日本の非常事態の中でせっかくの努力に水をぶっかけるような役所は、今度の行政改革でつぶすべきである。行政とは国民のためにあるのであって、法律のためにあるのではない。

     とにかく日本は空気を変えなくてはダメだ。幸い金融関係は片づいた。次は製造業と個人消費の出番である。世間の空気を帰るような意見が続出することを期待したい。

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